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金曜CNSカフェ:今週のおすすめメニュー 生命のしくみを“見える形”にする 抗真菌薬の効き方から、卵母細胞のタンパク質貯蔵庫、ハエトリグサの高速運動、抗体の信頼性まで

  • 6月12日
  • 読了時間: 6分

金曜日の午後、研究室のお茶机で「金曜CNSカフェ」を開きました。


今回は、生化学1の追試験対応があったため、いつもより少し遅めの開店となりました。今週は、抗真菌薬、卵母細胞の巨大構造、mRNAワクチン、T細胞代謝、細菌の抗ファージ免疫、ハエトリグサの高速運動、胎盤の代謝時計、子どもの脳発達、そして研究の信頼性まで、幅広い話題が並びました。

カスポファンギンと細胞壁合成酵素の構造

Natureでは、抗真菌薬カスポファンギンが、真菌の細胞壁合成に必須のβ-1,3-グルカン合成酵素をどのように阻害するのかを、構造から明らかにした研究が掲載されました。

ヒトの細胞には細胞壁がありませんが、真菌には細胞壁があります。そのため、細胞壁合成を止める薬は、真菌に対して選択的に働く可能性があります。

今回の研究は、薬がどこに結合し、どのように酵素の働きを止めるのか、さらに薬剤耐性がどのように起こるのかを考える上で重要です。構造生物学が、薬の作用機構や耐性の理解に直接つながる好例だと感じました。

初期発生を支える細胞質格子

同じNatureでは、卵母細胞に豊富に存在する「細胞質格子」に関する構造生物学の研究が複数掲載されました。

受精後すぐの胚発生では、新しく大量のタンパク質を作る前に、卵母細胞にあらかじめ蓄えられていた分子が重要な役割を果たします。今回の研究では、その貯蔵庫のような構造が、単なる不定形な集まりではなく、秩序だった巨大複合体であることが示されています。

細胞の中には、まだよく分かっていない巨大な構造体が多くあります。今回の細胞質格子の研究は、「細胞内の見えにくい構造をどう理解するか」という点でも興味深い話題でした。

抗体だけではないワクチンの働き

mRNAワクチンというと、抗体を作らせる仕組みとして理解されることが多いですが、免疫応答にはT細胞も重要です。

Natureでは、mRNAワクチンがCD8陽性T細胞を活性化する際に、従来想定されていたものとは異なる経路を使うことを示す研究が掲載されました。CD8 T細胞は、ウイルス感染細胞やがん細胞を排除する上で重要な免疫細胞です。

ワクチンの効果を考えるときには、抗体価だけでなく、どのようなT細胞応答が誘導されるのかも重要になります。mRNAワクチンの仕組みを、より深く理解するための研究として印象的でした。

硫黄の行き先が免疫機能を左右する

Cellでは、CD8 T細胞の増殖やエフェクター機能が、システイン由来の硫黄の使われ方によって制御されることを示す研究が紹介されました。

システインは、酸化ストレスから細胞を守るグルタチオンの材料にもなりますし、鉄硫黄クラスターの合成にも使われます。T細胞の中で、この硫黄がどちらの経路に使われるかが、T細胞の機能を左右するという内容です。

免疫細胞の働きは、抗原を認識するかどうかだけで決まるわけではありません。細胞内の代謝の流れが、免疫応答の強さや質を決めるという点が面白い研究でした。

cGAMPで作動する細菌の防御装置

Cellでは、細菌がファージから身を守るCBASSという防御システムに関する研究も掲載されました。

この研究では、2'3'-cGAMPによって活性化される膜タンパク質がフィラメントを形成し、膜を物理的に壊すような仕組みで抗ファージ免疫を発揮することが示されています。哺乳類のcGAS-STING経路にもつながる、進化的に興味深い免疫システムです。

免疫というと動物の免疫細胞を思い浮かべますが、細菌にもウイルスに対抗する多様な仕組みがあります。分子の構造、膜の物理、免疫がつながる点で、研究室向けにも面白い話題でした。

細胞壁の軟化が高速運動を生む

Scienceの表紙は、虫を捕まえるハエトリグサでした。

ハエトリグサは、葉を一瞬で閉じることで昆虫を捕らえます。今回の研究では、その高速運動が、表皮細胞の細胞壁が急速に軟らかくなることによって始まることが示されました。

植物は動物のような筋肉を持っていません。それでも、細胞壁や水圧、組織の形を巧みに利用して、非常に速い動きを実現しています。植物の運動を、力学と細胞壁の性質から理解する研究として、とても印象的でした。

7品目:胎盤の代謝時計

NAD+が出産のタイミングに関わる

Scienceでは、胎盤のNAD+代謝が出産のタイミングを調節するという研究も掲載されました。

胎盤は、母体と胎児をつなぐ栄養やガス交換の場として知られています。しかし今回の研究は、胎盤が出産のタイミングを決める代謝時計のような役割も持つ可能性を示しています。

妊娠や出産は、ホルモンだけでなく、代謝、胎盤、母体の状態が複雑に関わる現象です。先週から続く「母体」「脳」「代謝」の話題ともつながる研究でした。

8品目:子どもの環境と脳発達

脳は社会環境の影響も受けて育つ

Scienceでは、子どもの脳構造や脳機能と、社会経済的環境との関連を大規模に調べた研究も紹介されていました。

脳の発達は、遺伝や個人の性格だけで決まるわけではありません。家庭、地域、教育、経済状況など、子どもを取り巻く環境も脳の発達に影響します。

この研究は、脳を個人の中だけで完結するものとして見るのではなく、社会環境の中で発達するシステムとして考える必要があることを示しています。

9品目:抗体と研究の信頼性

カタログ情報も無批判には使えない

今週はNatureとScienceの両方で、抗体や試薬に関わる研究信頼性のニュースが取り上げられていました。

Natureでは、研究用抗体カタログに掲載された画像に疑義が指摘されたニュースがあり、Scienceでは、タンパク質名の混同によって誤った抗体が使われていた可能性が報じられていました。

抗体は生命科学実験で非常によく使われる試薬ですが、目的のタンパク質だけを正しく認識しているかどうかは、実験ごとに慎重に確認する必要があります。試薬メーカーの情報や過去の論文をそのまま信じるのではなく、自分の実験系で検証する姿勢が大切だと改めて感じました。

今週のまとめ

今週のCNSカフェでは、抗真菌薬の構造生物学、卵母細胞の巨大構造、mRNAワクチン、T細胞代謝、細菌の抗ファージ免疫、ハエトリグサの高速運動、胎盤の代謝時計、子どもの脳発達、そして研究の信頼性について話題にしました。

一見ばらばらに見えるテーマですが、共通しているのは、生命現象を「分子」「構造」「代謝」「環境」「社会」の複数の視点から理解しようとしている点です。

また、最新研究を読むことは、新しい発見を知るだけでなく、自分たちの実験や研究の進め方を見直すきっかけにもなります。お茶を飲みながら論文を眺める時間が、研究室内での小さな議論や新しい発想につながればと思います。

 
 
 

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Tokyo University of Science

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