top of page

金曜CNSカフェ:本日のおすすめメニュー

  • 5月15日
  • 読了時間: 5分

本日午後、「金曜CNSカフェ」を開きました。


これは以前紹介したCell、Nature、Science などの一流科学誌に掲載された最新研究を、お茶やコーヒー、お菓子とともに気軽に眺める会です。論文を一報ずつじっくり読むというより、まずは「今、どんな研究が世界で話題になっているのか」に触れてみることを目的としています。


今週のサムネールは、カフェの黒板メニュー風にしてみました。黒板に並んだ「本日のおすすめ」は、メニュー表にあるとおりDICER、RNA ensemble、Cas9 supercoiling、genome writing、Marburgvirus GP、plant resistosome、phage evolution。どれも生命科学の最前線を感じさせる、少し濃いめのメニューです。


以下、メニューの紹介です。

DICERは、RNA干渉という仕組みに関わる重要な酵素です。長いRNAを短く切り、遺伝子の働きを調節する小さなRNAを作ります。

今回の研究では、DICERがRNAのどこを切るかを、どのように正確に決めているのかが調べられました。その結果、DICERはRNAの5′末端を読み取る複数のポケットを使い分け、RNA末端の塩基やRNA配列の特徴、さらに酵素自身の動きを組み合わせて切断位置を決めていることが示されました。

RNAを単純に「端から何文字目で切る」のではなく、複数の情報を統合して精密に切る。小さなRNAが正しく作られる背景には、かなり繊細な分子認識があることが分かります。


RNAは、いつも一つの決まった形だけを取っているわけではありません。複数の形の間を揺れ動いており、その割合が機能に影響します。

この研究では、HIV-1由来のTAR RNAを使い、RNA配列の小さな違いが、RNAの形のバランスや細胞内での働きにどう影響するかが調べられました。わずかな配列変化でも、機能する形を取る割合が大きく変わり、それがタンパク質との結合や細胞内活性の違いにつながることが示されています。

RNAの機能を理解するには、最も安定な形を見るだけでは不十分です。どの形が、どれくらいの割合で存在しているのかを見ることが大切だと分かる研究でした。


CRISPR–Cas9は、ゲノム編集に広く使われる技術です。一方で、狙った場所以外を切ってしまう「オフターゲット」が課題になります。

この研究では、Cas9の働きがDNAの配列だけでなく、DNAのねじれ具合にも影響されることが示されました。特に、負の超らせんと呼ばれる状態のDNAでは、Cas9がミスマッチを含む配列にも反応しやすくなることが構造レベルで明らかにされています。

ゲノム編集の精度を考えるときには、DNA配列だけでなく、細胞内でDNAがどのような物理的状態にあるかも重要になるようです。


遺伝子治療や細胞工学では、大きなDNAを細胞のゲノムに正確に組み込む技術が重要です。しかし、従来使われる二本鎖DNAは細胞の免疫反応を刺激しやすく、細胞に負担をかけることがあります。

今回の研究では、一本鎖の環状DNAとリコンビナーゼという酵素を組み合わせることで、免疫反応を抑えながら大きなDNAをゲノムに組み込む方法が提案されました。

ポイントは、DNAを書き込む酵素だけでなく、DNAをどのような形で細胞に届けるかも重要だということです。ゲノム編集や遺伝子治療の今後につながる技術として注目されます。


マールブルグウイルスは、重い出血熱を引き起こすウイルスです。この研究では、ウイルス表面にある糖タンパク質GPが、ヒト細胞内のNPC1という受容体をどのように認識するのかが構造解析されました。

その結果、マールブルグウイルスGPはNPC1と効率よく結合し、細胞への侵入を助ける構造的特徴を持つことが分かりました。また、中和ナノボディが受容体結合部位を標的にできることも示され、治療法開発への手がかりにもなります。

ウイルスが細胞に入る第一歩を構造から理解することは、感染症対策にもつながる重要な研究です。


植物にも、病原体を見つけて防御反応を起こす免疫受容体があります。

この研究では、小麦の免疫受容体WAI3が活性化したとき、8個集まった八量体の複合体を作ることが示されました。この複合体は細胞内にカルシウムを流入させ、植物の免疫応答を引き起こします。

植物は動物のような免疫細胞を持っていませんが、それぞれの細胞が病原体を感知し、防御スイッチを入れます。その仕組みを分子の形から理解できる、興味深い研究です。


ファージは、細菌に感染するウイルスです。細菌にとっては脅威ですが、ファージ側も細菌の防御を突破しようと進化します。

この研究では、バングラデシュのコレラ流行地域で、コレラ菌とそれに感染するファージがどのように進化しているかが調べられました。コレラ菌はファージから身を守る遺伝因子を獲得し、それに対してファージ側も防御を破る変化を起こしていました。

病原菌とウイルスの攻防が、実際の感染症流行の中でリアルタイムに進んでいることを示す、ダイナミックな研究です。


今週のまとめ

今週のメニューを眺めると、RNAを正確に切る仕組み、RNAの形のゆらぎ、DNAのねじれ、ゲノムへのDNA書き込み、ウイルスの侵入、植物の免疫、細菌とファージの進化など、さまざまな生命現象が登場しました。

一見ばらばらに見えるテーマですが、共通しているのは、生命が分子の形、動き、相互作用によって精密に制御されているということです。


金曜の午後に、お茶やコーヒーを片手に一流紙を眺める時間。

難しい論文も、少しずつ味わってみると、生命科学の面白さが見えてきます。


 
 
 

コメント


Tokyo University of Science

  • Facebook Clean Grey
  • Twitter Clean Grey
  • LinkedIn Clean Grey

© 2020 by Tatsuya Nishino

bottom of page