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金曜CNSカフェ:今週のおすすめメニュー 生命の情報・エネルギー・力を読み解く 抗CRISPRのmRNA分解から、細胞内DNA組み立て、ヤツメウナギの脳、スミレの種子発射まで

  • 2 日前
  • 読了時間: 8分

今週も、Nature誌とScience誌の最新号から、気になった研究を持ち寄って金曜CNSカフェを開催しました。

今回は、細菌とファージの分子攻防、大きなDNAを正確に挿入するゲノム編集技術、これまで見落とされてきた小さなタンパク質、核へのエネルギー供給、母体栄養と新生児免疫、脳の進化、そして植物の巧妙な種子散布まで、幅広い話題がそろいました。

一見すると関係のないテーマのようにも見えますが、いずれも生命が「情報」「エネルギー」「構造」「力」をどのように扱っているのかを明らかにする研究です。

それでは、今週のおすすめ8品です。

1品目:Cas12を作らせない抗CRISPR

細菌は、侵入してきたファージのDNAを切断するCRISPR–Casシステムを備えています。一方、ファージ側も抗CRISPRタンパク質を作り、細菌の防御を妨害します。

これまで知られていた抗CRISPRの多くは、完成したCasタンパク質に結合して、その働きを直接止めるものでした。今回の研究で調べられたAcrVA2は、それとは異なる方法を使います。

AcrVA2は、リボソームから出てきた翻訳途中のCas12aのN末端領域を認識し、cas12a mRNAを選択的に分解へ導きます。つまり、完成したCas12aを止めるのではなく、その設計図であるmRNAを翻訳中に消して、Cas12aそのものを作らせません。

認識されるのがmRNAの塩基配列ではなく、翻訳中に現れるアミノ酸配列である点も興味深いところです。細菌とファージの攻防が、DNA切断やタンパク質阻害だけでなく、翻訳とmRNAの安定性をめぐっても繰り広げられていることが分かります。

2品目:タンパク質を手掛かりにDNAを作る逆転写酵素

細菌の抗ファージ防御系DRT3には、Drt3aとDrt3bという2種類の逆転写酵素と、非コードRNAが含まれています。

Drt3aは、非コードRNAに含まれるACACACという配列を鋳型にして、GTが交互に並んだDNA鎖を合成します。こちらはRNAを読み取ってDNAを作る、比較的なじみのある逆転写反応です。

一方、Drt3bは核酸鋳型を使わず、タンパク質に結合したままAC反復DNAを合成します。活性部位に配置されたアミノ酸側鎖が、AとCを交互に選ぶための「鋳型」のように働くと考えられています。

こうして別々に作られたGT鎖とAC鎖が対合し、二本鎖の反復DNAになります。

核酸配列を正確に作るための情報源は、必ずしもDNAやRNAだけではないことを示す、非常に珍しい反応です。1品目の抗CRISPRと合わせると、細菌とファージの軍拡競争が、分子生物学の新しい仕組みを生み出す豊かな研究対象であることが分かります。

3品目:大きなDNAを細胞内で組み立てて挿入する

Prime editingは、標的DNAを大きく切断せずに、塩基置換や短い配列の挿入・欠失を行える技術として発展してきました。しかし、遺伝子全体のような大きなDNA断片を正確に挿入することは、依然として難しい課題です。

今回報告されたprime assemblyでは、twin prime editingを利用して、標的ゲノムの両側に短い一本鎖DNAの「のりしろ」を作ります。そこへ、両端に対応する配列を持つ線状二本鎖ドナーDNAを加えることで、細胞内でDNA断片を組み立て、標的部位へ挿入します。

複数のドナー断片を重なり合う配列でつなぐこともでき、細胞内でGibson assemblyに似た反応が進むと考えられます。最大11 kbまでのDNA挿入が実証され、非分裂細胞でも利用できました。

DNA二本鎖切断、インテグラーゼ、通常の相同組換えに依存しない点も特徴です。今後は、長いDNAを導入した際の精度や意図しない挿入、細胞への送達方法などをさらに評価する必要がありますが、遺伝子単位の修復や導入を目指す技術として注目されます。

4品目:ゲノムの暗黒領域に隠れた小さなタンパク質

ヒトの標準的なタンパク質コード遺伝子は、約2万個とされています。しかし、従来は非コード領域と考えられてきた場所にも、短いオープンリーディングフレームが多数存在し、そこから小さなペプチドやmicroproteinが翻訳されていることが分かってきました。

今回の研究では、7,264個の非典型的ORFについて、9万件を超えるプロテオーム解析データを統合し、実際にペプチドが検出されるかを調べました。その結果、候補の約4分の1で、何らかのタンパク質レベルの証拠が得られました。

ただし、短い翻訳産物が検出されたことと、それが安定した機能性タンパク質であることは同じではありません。

そこで研究チームは、翻訳されている証拠はあるものの、機能性タンパク質かどうかがまだ確定していないものを「peptidine」と呼ぶ枠組みを提案しました。

存在すること、進化的に保存されていること、細胞内で機能することを段階的に評価し、過剰な遺伝子注釈を避けながら未知のプロテオームを探索する考え方です。これらの短い翻訳産物の中には、疾患に関わるものや、がん免疫療法の標的となるものが隠れている可能性があります。

5品目:核のそばでエネルギーを届けるミトコンドリア

核内では、DNA複製、転写、RNA輸送、クロマチン再編成など、エネルギーを大量に消費する反応が進んでいます。

これまで、ミトコンドリアで作られたATPなどのエネルギー分子は、細胞質を拡散して核へ届くと考えられてきました。今回の研究では、ミトコンドリア外膜のVDAC1と、核膜孔複合体を構成するRANBP2が直接相互作用することが示されました。

この相互作用により、ミトコンドリアが核膜孔の近くに係留され、核の高いエネルギー需要を局所的に支えると考えられます。特に、細胞が分化する際には、このミトコンドリア–核接触が核内代謝や遺伝子発現を維持する上で重要でした。

核膜孔は、核と細胞質の間を物質が通るための出入口であるだけでなく、ミトコンドリアと連携する局所的なエネルギー供給拠点でもあるようです。

6品目:母乳中の脂肪酸が新生児免疫を形作る

母乳には、栄養素だけでなく、抗体、サイトカイン、微生物など、新生児の発達と免疫を支えるさまざまな成分が含まれています。今回の研究では、その中の1種類の脂肪酸だけでも、新生児の免疫発達を変えられることが示されました。

注目されたのは、trans-vaccenic acid(TVA)です。TVAは母親の食事に由来し、母乳を通じて新生児へ移行します。

TVAを多く含む母乳を飲んだマウスでは、naive CD4陽性T細胞が増加しました。また、TVAはGPR43、cAMP–PKA、CTCF、TBX21を介する経路によってT細胞の遺伝子制御を変え、免疫応答を新生児期に多いTh2型からTh1型へと傾けました。

その結果、インフルエンザウイルスやサルモネラへの抵抗性が高まりました。さらに、新生児期に母乳を介してTVAを受け取った効果の一部は、成体期の抗ウイルス免疫にも残りました。

栄養素は単なる材料やエネルギー源ではなく、発生期の免疫系を長期的に設定するシグナルにもなり得ます。ただし、これは特定の天然脂肪酸を発生期の文脈で調べた研究であり、一般的なトランス脂肪酸の摂取を推奨するものではありません。

7品目:ヤツメウナギから見えた脊椎動物の脳の原型

ヤツメウナギは、顎を持つ脊椎動物から約4億5000万年前に分岐した無顎類です。そのため、脊椎動物の脳がどのように進化したかを調べる上で、重要な位置にあります。

今回の研究では、single-nucleus RNA sequencingと空間トランスクリプトームを組み合わせ、ヤツメウナギの成体脳を三次元的に解析しました。14の主要脳領域から209の細胞集団が同定され、他の脊椎動物との比較が行われました。

嗅球、視床、後脳などでは、ヤツメウナギとマウスの間で、細胞構成や空間配置が広く保存されていました。これは、脊椎動物の共通祖先が、すでに高度に領域化された脳の基本設計を持っていたことを示します。

一方で、各系統では神経細胞が独自に専門化し、配置や遺伝子発現を変化させていました。また、完全な小脳が形成される以前から、その基本部品となる細胞群が存在していた可能性も示されました。

脳の進化は、新しい部位を次々と付け加えるだけではなく、古くからある領域と細胞を専門化し、再配置する過程でもあったようです。

8品目:スミレは種を一粒ずつつまんで飛ばす

スミレの果実は、成熟すると種子を数メートル先まで飛ばします。しかし、一度の爆発ですべての種を放出するのではありません。

果実は3枚の弁に分かれ、乾燥に伴って弁が変形します。その変形が先端から基部へ順番に進み、種子を一粒ずつ「つまむ」ように押し出します。種子は、果実につながる組織が切れた瞬間に、約1ミリ秒で最大毎秒10メートルまで加速されます。

この仕組みの特徴は、最も強い力が発生する場所が、弁の変形に伴って移動することです。そのため、1つの果実が数十個の種子を、ほぼ同じ力で順番に射出できます。

蓄えられたエネルギーの種子運動への変換効率も高く、材料をあまり使わずに、安定した連続発射を実現しています。

研究チームは、この設計原理を使って、湿度に応答して自律的に閉じるアクチュエーターも作製しました。先週紹介したハエトリグサと同様に、植物の形状、細胞壁、乾燥、弾性を利用した運動は、ソフトロボットや生体材料の設計にもヒントを与えます。

今週のまとめ

今週のおすすめ8品では、生命が情報、エネルギー、栄養、構造、力をどのように扱っているのかを、分子から個体、進化までさまざまなスケールで眺めました。

ファージは翻訳中のCas12aを認識し、そのmRNAを消去します。細菌の逆転写酵素は、RNAだけでなくタンパク質構造も手掛かりにしてDNAを作ります。ゲノム編集技術は、細胞内で大きなDNA断片を組み立てる段階へ進みました。

一方、ヒトゲノムの暗黒領域からは、まだ正体の分からない小さな翻訳産物が見つかっています。細胞内では、ミトコンドリアが核膜孔の近くに係留され、核へ局所的にエネルギーを届けます。母乳中の脂肪酸は新生児の免疫を形作り、その影響を成体期まで残します。

ヤツメウナギの脳からは、脊椎動物の古い脳の基本設計が見えてきました。そしてスミレの果実は、力の集中点を移動させながら、種子を一粒ずつ効率よく飛ばしていました。

生命は、情報を保存するだけでなく、必要に応じて消し、読み替え、組み立てます。エネルギーや栄養を適切な場所へ届け、構造を利用して力へ変換します。

今週も、最新の論文を眺めながら、生命科学の奥深さと広がりを楽しむ時間となりました。

 
 
 

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Tokyo University of Science

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