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金曜CNSカフェ:今週のおすすめメニュー 空間ゲノミクス、凝縮体AI、RNAシャペロン、4D Nucleomeまで

  • 7月24日
  • 読了時間: 8分

今週も、Cell誌、Nature誌、Science誌から気になった論文を持ち寄り、金曜CNSカフェを開催しました。

今回は、空間CRISPRスクリーニング、凝縮体形態を読み解く深層学習、全細胞デジタルツイン、mRNA 3′UTRによるタンパク質シャペロン、核内RNAの運命決定、共生細菌由来アセチルコリン、ヒト全身の3Dゲノムアトラス、そして遺伝子編集臨床試験の安全性を取り上げました。

今週の論文に共通するのは、生命現象を単に観察するだけではなく、細胞内の位置、形、構造、時間変化を読み取り、機能との因果関係を明らかにしようとする姿勢です。

それでは、今週のおすすめ8品です。

1品目:CRISPRスクリーニングに空間情報を加える

従来のCRISPRスクリーニングでは、特定の遺伝子を破壊した細胞が増えたか、減ったかといった表現型を測定します。しかし、実際の組織では、細胞がどこに存在し、どの細胞と接触し、どのような微小環境を作るかも重要です。

この研究では、遺伝子摂動と空間トランスクリプトームを同時に読み取るSPAC-seqが開発されました。組織切片上でsgRNAとmRNAを同時に検出し、遺伝子欠損が細胞の位置や微小環境、細胞間相互作用へ与える影響を解析します。

腫瘍モデルでは、Icam1欠損細胞が免疫抑制性の空間ニッチを形成し、転移を促進することが示されました。また、マクロファージのSPP1とCD8陽性T細胞のCD44との相互作用が、T細胞の局在と機能状態を制御することも明らかになりました。

遺伝子機能を、細胞単独の性質ではなく、組織内の位置と周囲の細胞との関係から読み解く技術です。

2品目:凝縮体の形をAIで読み解く

核小体や核スペックルなどの生体分子凝縮体は、RNA転写やRNAプロセシング、リボソーム形成などを空間的に整理しています。凝縮体の形態は薬剤処理や細胞状態によって変化しますが、その変化を客観的に分類することは容易ではありません。

この研究では、顕微鏡画像から凝縮体形態を直接解析する深層学習システムDeep-Phaseが開発されました。核小体のnormal、cap、necklaceといった形態を高精度で分類し、薬剤によるRNA転写・プロセシング阻害を画像から推定します。

さらに化合物スクリーニングから、TOP1阻害に特徴的な核小体形態が見つかり、TOP1がrRNAプロセシングと核小体構造の維持に関わることが示されました。

凝縮体の「見た目」は単なる形態変化ではなく、細胞内の生化学的状態を映し出す機能的な指紋のようです。

3品目:実細胞から全細胞デジタルツインを作る

細胞全体を計算機内で再現するwhole-cell modelは、細胞機能や薬剤応答を予測するための重要な目標です。しかし、オルガネラの形態や移動、細胞骨格との相互作用まで含めて再現することは困難でした。

この研究では、4D lattice light-sheet microscopyで取得した生細胞画像をもとに、細胞膜、核、ミトコンドリア、微小管、モータータンパク質を組み込んだ粒子ベースのデジタルツインが構築されました。

シミュレーションでは、ミトコンドリアの融合・分裂、拡散、微小管上の輸送を再現し、微小管を破壊したときのミトコンドリア動態を再調整なしで予測しました。

また、dyneinによる逆行輸送を増やすだけでは、ミトコンドリアは核周囲へ集まりませんでした。核周囲集積には、輸送速度だけでなく、微小管ネットワークの接続構造が必要であることが示されました。

実験画像をもとに作られたデジタル細胞が、摂動後の細胞内動態を予測する段階へ進みつつあります。

4品目:mRNAの3′UTRがタンパク質の折りたたみを助ける

mRNAの3′UTRは、mRNAの安定性や局在、翻訳効率を制御する領域として知られています。今回の研究では、3′UTRが翻訳中のタンパク質の折りたたみを助けるRNAシャペロンとして働くことが示されました。

高度に保存された3′UTRを持つmRNAは、長い天然変性領域を含む転写因子やクロマチン制御因子を多くコードしていました。MYC、UTX、JMJD3では、3′UTRの有無によってタンパク質量や局在はほとんど変わらないにもかかわらず、タンパク質活性が大きく変化しました。

JMJD3では、3′UTRが存在しないと、天然変性領域中の疎水性クラスターがfolded domainへ不適切に接触し、低活性型の構造が形成されます。一方、3′UTRが翻訳中の天然変性領域へ結合すると、IDR同士の相互作用が促進され、folded domainへの誤った接触が防がれます。

さらに、シャペロン活性を持つ3′UTRは多価性が高く、細胞質のmesh-like condensateへ濃縮されていました。RNA凝縮体が、天然変性領域を持つタンパク質の局所的なフォールディング環境として働く可能性があります。

タンパク質の最終的な機能は、アミノ酸配列だけでなく、どのmRNAから、どの細胞内環境で翻訳されたかにも左右されるようです。

核内では、機能的なmRNAだけでなく、短く不完全な転写産物も大量に作られます。細胞はこれらを区別し、機能的なRNAを核外へ輸送し、不要なRNAを核内で分解する必要があります。

この研究では、RNA輸送とRNA分解が、共通してUAP56結合RNAを受け取るTREX-2様複合体によって制御されることが明らかになりました。

核膜孔に存在するTREX-2は、UAP56からRNAを受け取り、機能的なmRNAを核外輸送へ導きます。一方、核質内ではLENG8–PCID2–SEM1複合体がPAXTと協力し、UAP56からRNAを外して核内エキソソーム分解へ送ります。

輸送と分解は全く異なる反応に見えますが、実際にはよく似た分子装置を使っています。どちらの複合体と出会うかという核内の位置関係が、RNAの運命を左右すると考えられます。

アセチルコリンは、神経伝達物質としてよく知られています。しかし今回、腸内共生細菌も食餌由来のコリンからアセチルコリンを産生し、宿主免疫を制御することが示されました。

研究グループは、100種類の共生細菌を試験管内で培養した場合と、無菌マウスの腸内へ単独定着させた場合で、産生される代謝物のGPCR活性を比較しました。その結果、体内では宿主、食餌、細菌の相互作用によって、試験管内とは異なる代謝物が作られることが分かりました。

Bifidobacterium breveなどの細菌は、食餌由来コリンをアセチルコリンへ変換しました。アセチルコリン産生能を持つB. breveを定着させたマウスでは、腸管IgA産生が増加し、腸内細菌叢が変化し、腸管感染への抵抗性が高まりました。

食事、腸内細菌、神経伝達物質、粘膜免疫が一本の経路としてつながる研究です。

7品目:ヒト全身の3Dゲノム構造を単一細胞で描く

Human body single-cell atlas of three-dimensional genome organization and DNA methylation(Science)

DNAは核内に無秩序に存在するのではなく、ループやドメイン、コンパートメントを形成して三次元的に折りたたまれています。この3Dゲノム構造は遺伝子発現を制御しますが、全身の細胞種でどのように異なるかは十分に分かっていませんでした。

この研究では、16組織から得た8万6689個の単一核について、DNAメチル化と3Dクロマチン接触を同時に測定しました。35種類の主要細胞種と206種類の細胞サブタイプが同定されています。

神経細胞では局所的なクロマチンドメインが強く、造血系細胞では長距離のコンパートメント間相互作用が優勢でした。また、DNAメチル化による細胞分類と3Dゲノム構造による分類は、必ずしも完全には一致しませんでした。

細胞のアイデンティティは、遺伝子発現やDNAメチル化だけでなく、核内でゲノムがどのように折りたたまれているかによっても定義されるようです。

8品目:遺伝子編集治療の安全性と説明責任

A fatal reaction(Science)

遺伝子編集技術は、原因変異を直接修復できる治療法として期待されています。一方で、臨床応用では、編集効率だけでなく、送達方法、免疫反応、オフターゲット、安全性評価、倫理審査など、多くの課題があります。

Science誌のFeature記事では、中国で行われた、希少な神経発達疾患を持つ少女一人のための個別化base-editing治療が取り上げられました。少女は脳を標的とする実験的な遺伝子治療を受けましたが、治療後に重篤な反応を起こして死亡しました。

記事では、非ヒト霊長類で得られた安全性データの扱い、倫理審査、家族への説明、治療費負担、治療後の情報開示など、個別化遺伝子治療を巡るさまざまな問題が検討されています。

新しい技術を患者へ届けるには、科学的な新規性だけでは不十分です。安全性評価、透明性、第三者による審査、患者と家族への十分な説明が不可欠です。

今週のまとめ

今週の8品では、細胞や組織の状態を、空間、形態、時間、核内構造から読み解く研究を取り上げました。

SPAC-seqは遺伝子機能を組織内の位置から読み取り、Deep-Phaseは凝縮体の形から細胞内RNA代謝を推定します。全細胞デジタルツインは実細胞の動態を計算機内へ再構成し、3′UTRは翻訳中のタンパク質を折りたたむRNAシャペロンとして働きます。

核内ではRNA輸送と分解が競合し、腸内では共生細菌がアセチルコリンを介して免疫系を教育します。核内の3Dゲノム構造は細胞ごとに異なり、細胞アイデンティティを形作ります。

一方、遺伝子編集技術の臨床応用は、その可能性と同時に大きな責任を伴います。

生命科学は、細胞をより細かく測り、より精密に操作できる方向へ進んでいます。だからこそ、技術によって何が可能になったかだけでなく、何を予測できないのか、どこまで安全性を確認すべきかを考える必要があります。

今週も、細胞内の分子機構から臨床応用まで、生命科学の広がりを感じる時間となりました。

 
 
 

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