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金曜CNSカフェ:今週のおすすめメニュー 生命を動かす「つながり」を作り替えるGPCRをつなぐ分子接着剤から、ウイルスのDNA複製装置、遺伝暗号の再設計、FANCMによるecDNA維持まで

2 日前
読了時間: 11分

今週も、Nature、Science誌の最新号から、気になった研究を持ち寄って金曜CNSカフェを開催しました。

今回は、小分子によって受容体同士をつなぐmolecular glue、巨大なウイルスDNA複製装置、遺伝暗号そのものを組み替える技術、がん細胞の染色体外DNAを守るDNA修復系、細菌の防御機構をまとめて無効化するファージのkinaseなど、分子同士の「つながり」を作ったり、組み替えたりする研究が多くそろいました。

さらに、Golgiからミトコンドリアへ運ばれる脂質シグナル、腸内細菌叢によるワクチン発熱の準備状態、そして本来は有害な活性酸素を新しい酵素反応へ利用する研究まで、分子から細胞、個体へと話題が広がります。

それでは、今週のおすすめ8品です。

1品目:小分子がβ2アドレナリン受容体同士を「接着」する

Gタンパク質共役受容体(GPCR)は、細胞外の情報を細胞内へ伝える代表的な膜タンパク質です。

β2アドレナリン受容体(β2AR)は、アドレナリンなどの刺激を受けるとGs proteinを活性化し、cAMPを増加させます。一方、長時間刺激されるとGRKによるリン酸化とβ-arrestinの結合が起こり、受容体はdesensitizationへ向かいます。

今回のNature誌の研究では、AP-7-168という小分子が、単なるallosteric inhibitorではなく、2分子のβ2ARを直接つなぐmolecular glueとして働くことが明らかになりました。

Cryo-EM構造を見ると、2つのβ2ARの膜貫通ヘリックスTM3、TM4、TM5によって作られる界面に、2分子のAP-7-168が入り込んでいます。

この二量体化によって、Gs proteinが結合する空間は保たれる一方、GRKやβ-arrestinが結合しようとすると、もう一方のβ2ARと立体的に衝突します。

その結果、Gsを介したcAMP signalingは比較的保たれながら、β-arrestin recruitmentだけが強く抑えられます。

先週紹介したTRI-611では、molecular glueがALKとCRBNをつないで標的タンパク質を分解しました。

今回は、同じ受容体同士をつないで、その機能そのものを変えるmolecular glueです。

薬が受容体のactive siteへ結合するだけでなく、タンパク質の4次構造を作り替えることでシグナル伝達を制御する、新しい創薬の考え方です。

2品目:エムポックスウイルスのDNA複製装置を丸ごと見る

ポックスウイルスは、大型の二本鎖DNAゲノムを持つウイルスです。

通常のDNAウイルスの多くは宿主の核内でDNAを複製しますが、ポックスウイルスは細胞質で自前のDNA複製装置を使ってゲノムを増やします。

エムポックスウイルスでは、DNA polymeraseを構成するF8、A22、E4と、helicase–primaseであるE5が協力する必要があります。

しかし、それぞれのタンパク質の構造は知られていても、これらがどのように一つのreplisomeとして組み上がり、協調してDNAを複製するのかは十分に分かっていませんでした。

今回のcryo-EM解析では、E5が六量体ringを形成し、そこへF8–A22–E4 polymerase complexが結合した巨大な複合体が捉えられました。

興味深いことに、E5は単独ではprimase domainによってhelicase channelが塞がれ、低活性な状態にあります。

ところがpolymeraseが結合するとprimase domainsが大きく移動し、中央のchannelが開きます。

つまり、polymeraseとのassemblyそのものがhelicaseをONにするswitchになっています。

その後、helicaseによってDNAがほどかれ、lagging strand側ではE5のprimaseがRNA primerを合成し、それがDNA polymeraseへ受け渡されます。

DNA helicase、primase、polymeraseという別々の酵素が、単に近くに存在するのではなく、巨大分子機械として組み上がることで互いの活性を制御していることが見えてきました。

3品目:遺伝暗号そのものを「試作」する

Nature Japan 日本語要約自動化による遺伝暗号の試作

地球上のほぼ全ての生物は、64種類のcodonを使って20種類の標準アミノ酸を指定する、ほぼ共通の遺伝暗号を利用しています。

しかし、全てのcodonが必ずしも必要なわけではありません。

もし同じアミノ酸を指定する複数のcodonを整理して数を減らせれば、余ったcodonを、天然にはないアミノ酸や新しい化学反応に割り当てることができます。

問題は、実際の生物のgenomeを大規模にrecodingする作業が非常に大変なことです。

今回開発されたAGENTEX(automated genetic tRNA expansion)は、この問題をcell-free translationとrobot automationによって解決しようとするplatformです。

研究チームは、通常のtRNAの3′末端にあるCCA配列をCGAなどへ変えたorthogonal tRNAと、それに対応するよう改変したribosomeを作りました。

興味深いことに、aminoacyl-tRNA synthetaseはこうした非標準tRNAにも比較的柔軟にアミノ酸を結合できます。

一方、通常のribosomeはこれらを強く排除します。

つまり、遺伝暗号を維持する最後のgatekeeperの一つがribosomeによるtRNA選別だったことになります。

この性質を利用し、天然のtranslation systemとは独立して動作するparallel genetic codeを構築しました。

最終的には、codon数を圧縮したgenetic codeを作り、SerとAlaのcodonを入れ替えたり、stop codonへ非天然アミノ酸を割り当てたりすることにも成功しています。

新しい遺伝暗号をいきなり生きた細胞へ導入するのではなく、まずcell-free systemの中で「試作して、動かして、評価する」。

遺伝暗号そのものがengineeringの対象になり始めています。

4品目:がん細胞のecDNAをFANCMとMMEJが守る

一部のがん細胞では、がん遺伝子が通常の染色体上ではなく、extrachromosomal DNA(ecDNA)と呼ばれる環状DNA上に大量に存在しています。

ecDNAは細胞分裂時にランダムに分配されるため、がん細胞集団の多様性を生みやすく、薬剤耐性や急速な進化にもつながります。

ところが、ecDNAには一つの問題があります。

転写活性が非常に高い上に環状構造を取るため、DNAへ大きなtopological stressがかかります。

今回の研究では、ecDNA上のTA repeatが特に壊れやすい場所であることが明らかになりました。

転写に伴ってnegative supercoilingが蓄積すると、TA repeatはcruciformのようなsecondary structureを形成しやすくなります。

ここで最初に働くのがFANCMです。

FANCMはDNA translocaseとしてこうした異常構造を解消し、DNA切断が起こるのを防ぎます。

しかし、FANCMで処理できなかった構造はERCC1–ERCC4によって切断され、二本鎖切断になります。

そこで今度は、polymerase θ(Polθ)が担うmicrohomology-mediated end joining(MMEJ)が切断を修復します。

つまりecDNAは、

FANCMによる構造除去 → それでも切れたDNAをPolθ/MMEJで修復

という二段階の防御によって維持されています。

実際にPolθを阻害すると、ecDNAに選択的なDNA damageが蓄積し、ecDNAはmicronucleusへ隔離され、最終的に細胞から失われていきました。

がん細胞にとってecDNAの高い転写活性は大きな強みですが、その強さそのものがTA repeatの構造形成という内在的な弱点も作り出していました。

その弱点をFANCMとPolθが支えているという、DNA修復とがん進化がつながる研究です。

5品目:ファージは細菌の防御系を「大量リン酸化」で無効化する

先週は、細菌がファージのprohead proteaseを感知してCBASS免疫を起動する仕組みを紹介しました。

今週は、今度はファージ側の反撃です。

T7 bacteriophageはT7Kというprotein kinaseを持っています。

このkinaseは以前から知られていましたが、少数のhost proteinを選択的にリン酸化すると考えられていました。

ところが感染後のphosphoproteomeを詳しく調べると、驚くべき結果が得られました。

T7Kは非常に基質選択性が低いhyperpromiscuous dual-specificity kinaseで、感染中に宿主とファージのほぼ全proteomeへ大量のリン酸化を導入していました。

その規模は、約500種類のkinaseを持つ哺乳類細胞よりも高いproteome-wide phosphorylation densityに達します。

ただし、完全に無秩序というわけではありません。

T7KにはDNA-binding domainがあり、特にnucleic-acid-binding proteinを高いstoichiometryでリン酸化します。

その標的には、細菌がファージから身を守るために使う防御タンパク質も含まれていました。

例えばRetron-Eco9では、toxinであるRcaTの特定部位をリン酸化すると防御活性が失われます。

しかも、そのリン酸化を模倣する1個のphosphomimetic mutationだけでも防御機能が停止しました。

これまで知られてきたanti-CRISPRの多くは特定の防御系を狙います。

T7Kはそれとは異なり、host proteome全体を大量にリン酸化することで、複数の防御systemをまとめて機能不全にします。

細菌とファージの軍拡競争では、「精密誘導兵器」だけでなく、proteome全体を書き換えるような戦略も使われていました。

6品目:Golgiから届く脂質がミトコンドリアを融合させる

ミトコンドリアは固定された細胞小器官ではありません。

絶えず分裂と融合を繰り返しながら、細胞の状態に応じて形や分布を変えています。

Mitochondrial fissionについては、ERやGolgiなど他のorganelleとの接触が重要であることが分かってきました。

では、逆にmitochondrial fusionはどのように場所を決めているのでしょうか。

今回のScience誌の研究では、trans-Golgi networkから生じるvesicleがその鍵を握っていました。

これらのvesicleには、phosphoinositideの一種であるPI(3,4)P2が含まれています。

PI(3,4)P2-positive vesicleは、mitofusinが存在するmitochondrial contact siteへ移動し、その直後にmitochondrial fusionが起こります。

PI(3,4)P2を合成するPI3K-C2αとPI3K-C2βを失わせると、ミトコンドリアは細かくfragmentationしました。

これは分裂が増えたためではなく、fusionが低下したためでした。

興味深いことに、Golgi由来vesicleはmitochondrial fissionにも関わっています。

その場合に運ばれるのは主にPI(4)Pです。

つまり同じGolgiから出るvesicleでも、

PI(4)P → fissionPI(3,4)P2 → fusion

と、運んでいる脂質によって正反対の現象を制御します。

Mitochondrial dynamicsはミトコンドリアだけで完結しているのではなく、他のorganelleから届く局所的な脂質情報によって制御されていました。

7品目:ワクチンを打つ前から「発熱しやすさ」は準備されている

同じワクチンを接種しても、強く発熱する人もいれば、ほとんど症状が出ない人もいます。

その違いは、ワクチンを打った瞬間に生まれるのでしょうか。

今回のScience誌の研究では、SARS-CoV-2 mRNA vaccineを接種した人の血液と腸内細菌叢を接種前から追跡しました。

すると、発熱した人ではワクチン接種後にmicrobiomeが大きく変わったのではなく、接種前から腸内環境が異なっていました。

特に目立ったのが、鞭毛を持つLachnospiraceaeと、その構成成分であるflagellinです。

発熱しやすい人のmicrobiomeではflagellin geneの発現が高く、TLR5を刺激する炎症性flagellinが多く存在していました。

その中でもWaltera属が重要な候補として浮かび上がりました。

しかし、単なる相関だけではありません。

発熱しやすい人の便由来物質をhuman colonic organoidへ加えると、より強いIL-8産生が起こりました。

さらに、発熱した人としなかった人のmicrobiomeをそれぞれgerm-free mouseへ移植してワクチンを投与すると、発熱群由来のmicrobiomeを持つマウスの方が強い全身炎症反応を示しました。

この効果はflagellin receptorであるTLR5などを欠損させると弱くなることから、flagellinが少なくとも一部の原因であることも示されました。

つまりワクチン副反応は、接種時にゼロから始まるのではありません。

腸内細菌によって作られたbaselineのinnate immune toneが、あらかじめ反応の大きさを設定している可能性があります。

一方、flagellin-rich microbiomeと抗体産生との関連は明瞭ではありませんでした。

「副反応が強いほどワクチンがよく効いている」と単純には言えない点も重要です。

8品目:活性酸素を「邪魔者」ではなく反応試薬として使う酵素

活性酸素種(ROS)は、通常は酵素反応にとって厄介な存在です。

酸素が不完全に還元されるとsuperoxideやhydroperoxyl radicalなどが生じ、タンパク質を傷つけたり、望まない副反応を起こしたりします。

そのため、多くの場合はROSをいかに発生させないか、いかに除去するかが問題になります。

今回のScience誌の研究は、その考え方を逆転させました。

研究チームはflavin-dependent enzymeであるOld Yellow Enzyme 1(OYE1)を改変し、O2から生じるROSを新しいC–P bond形成反応のためのradical sourceとして利用しました。

まず還元型FMNからO2へ電子が移動し、superoxideが作られます。

これがprotonationされてhydroperoxyl radicalとなり、P–H bondから水素を引き抜くことでphosphorus-centered radicalを形成します。

このradicalがalkeneへ付加し、その後enzyme内で制御されたhydrogen-atom transferを受けて、chiralなC–P bond productが生まれます。

最初のwild-type enzymeでは反応効率は低かったものの、directed evolutionとmachine-learning-guided mutation predictionを組み合わせることで大きく改良されました。

最終的なvariantでは、高いyieldと97〜98% eeという高いenantioselectivityが得られました。

興味深いのは、今回の研究がROSを単に「制御した」のではないことです。

本来なら酵素を壊す可能性のあるreactive speciesを、目的とするradical chemistryへ意図的にredirectしています。

自然界では非常に限られているC–P bond形成反応を、既存のenzyme scaffoldから新たに作り出しました。

Protein engineeringは、既存の酵素反応を速くするだけではなく、自然界にほとんど存在しないchemistryを酵素に実行させる段階へ進んでいます。

今週のまとめ

今週の8品を眺めると、さまざまな階層で「つながり」が作られていることに気付きます。

β2ARでは、小分子が2つの受容体を物理的につなぐことで、シグナル伝達の選択性そのものを変えます。

エムポックスウイルスでは、helicase–primaseとpolymeraseが一つのreplisomeへ組み上がることで、初めて効率的なDNA複製が始まります。

AGENTEXでは、codon、tRNA、amino acid、ribosomeの対応関係を組み替え、天然とは異なる遺伝暗号を作ります。

一方、ecDNAでは、強い転写によって生じるDNA構造をFANCMが処理し、切れてしまったDNAをPolθ-dependent MMEJがつなぎ直すことで、がん細胞に有利な環状DNAが維持されています。

細菌とファージの攻防では、T7 phageが1つのkinaseを使ってhost proteomeを広範にリン酸化し、複数の防御系をまとめて無効化します。

細胞小器官の間にもつながりがあります。Golgiから届くPI(3,4)P2-rich vesicleが、離れたmitochondriaのfusion siteを制御していました。

さらに個体レベルでは、腸内細菌が作るflagellinによって、ワクチンを接種する前から全身免疫の反応性が調節されています。

そして最後の酵素工学では、本来なら有害なROSを、P-centered radicalを作るための反応中間体として利用し、新しいchemical bondへとつなぎました。

タンパク質とタンパク質、DNAと修復因子、codonとamino acid、細胞小器官と細胞小器官、微生物と免疫、そしてenzymeと新しいchemistry。

生命システムの機能は、個々の分子が何をするかだけでなく、何と何を、いつ、どこで、どのようにつなぐかによって決まっています。

今週も、構造生物学、DNA修復、synthetic biology、微生物学、細胞生物学、免疫、酵素工学まで、生命科学の広がりを楽しむ時間となりました。

 
 
 

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Tokyo University of Science

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