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金曜CNSカフェ:今週のおすすめメニュー 生命を「読む・設計する・組み替える」RNAでDNAを組み替える仕組みから、ATP synthaseにつながるTCA cycle、1残基ずつ読むペプチド、細胞を壊さないRNA-seqまで

10月2日
読了時間: 11分

今週も、Cell、Nature、Science誌の最新号から、気になった研究を持ち寄って金曜CNSカフェを開催しました。

今回は、RNAを使ってDNAを組み替える新しいゲノム編集システム、ATP synthaseに直接結合したTCA cycle酵素、ペプチド配列を1残基ずつ読み取るナノポア技術、構造を持たないタンパク質の合理的設計、標的タンパク質を丸ごと分解する分子接着剤など、分子を「観察する」だけでなく、読み、設計し、操作する研究が多くそろいました。

さらに、生きた細胞を壊さずに遺伝子発現を追跡する技術、ファージの酵素活性そのものを感知する細菌の免疫、そしてp53を失った細胞が作るWntシグナルの空間パターンなど、時間と空間の中で生命現象を捉える研究も登場しています。

それでは、今週のおすすめ8品です。

1品目:RNAでDNAを組み替える「ブリッジ組換え」

DNAを狙った場所で切断・編集するCRISPRは、生命科学を大きく変えました。その次の技術として注目されているのが、bridge RNA(bRNA)を使って2つのDNAを直接結び付けるbridge recombinationです。

IS621などのIS110ファミリーに由来するbridge recombinaseは、bRNAと複合体を作ります。bRNAにはドナーDNAとターゲットDNAを認識する領域があり、RNAが文字通り「橋」となって、離れた2つのDNAを同じ分子装置へ呼び込みます。

この仕組みでは、DNAを新しい場所へ挿入する反応だけでなく、ゲノム中のIS621を切り出して環状DNA中間体を作る逆向きの反応も必要です。しかし、自然界では切り出しよりも挿入の方がはるかに効率よく起こります。

今回、切り出し反応中のrecombinase–bRNA–DNA複合体がcryo-EMで解析され、その理由が構造から見えてきました。

挿入反応では、ドナーDNAとターゲットDNAが大きく曲がったU字型に配置されます。一方、切り出し反応ではDNAは比較的まっすぐなまま交差し、X字型の構造を形成していました。この違いによって、DNAのtop strandを交換する反応が切り出し側では起こりにくくなります。    s41586-026-10903-y

さらに、bRNA中の「handshake guide」と呼ばれる短い配列とDNAとの塩基対形成も反応効率を調節していました。

同じ酵素とRNAを使いながら、DNAをどのような形に配置するかによって反応の向きが決まるという、非常に美しい分子機構です。

Bridge recombinationは、大きなDNA配列をプログラム可能に挿入・再配置する技術への応用が期待されています。CRISPRとは異なるRNA-guided genome engineeringが、構造レベルから理解され始めています。

2品目:TCA cycleの酵素がATP synthaseに直接つながっていた

生化学の教科書では、TCA cycleと酸化的リン酸化(OXPHOS)は別々の図として説明されることが多くあります。

もちろん両者は代謝的には密接につながっています。TCA cycleで作られたNADHは電子伝達系へ電子を渡し、形成されたプロトン勾配をATP synthaseが利用してATPを作ります。

しかし今回のCell誌の研究では、この二つが代謝物を介してつながっているだけではなく、タンパク質として物理的にも結び付いているという予想外の構造が見つかりました。

研究対象は、病原性アメーバの Acanthamoeba castellanii です。精製したATP synthaseではなく、ミトコンドリアlysateをそのままcryo-EM解析することで、内在性のATP synthase、complex III、Hsp60などの構造を決定しました。

ATP synthaseのperipheral stalkを詳しく見ると、その上にmitochondrial malate dehydrogenase(MDH)の二量体が乗っていました。MDHはTCA cycleでmalateとoxaloacetateの変換を担う酵素です。

さらに、Acanthamoeba特有のMASAと名付けられた小さなsubunitが足場となり、MDHの長いN末端領域を介してATP synthaseへ固定されていました。MDHは単に結合しているだけではなく、複合体中でも酵素活性を保っています。    PIIS0092867426010688

つまりAcanthamoebaでは、TCA cycleの酵素がATPを作る巨大分子機械へ直接組み込まれていることになります。

代謝経路は細胞内でばらばらに存在する酵素反応の集合ではなく、必要に応じて酵素同士を空間的に集め、一つの「代謝装置」として組織化されているのかもしれません。

3品目:ペプチドを1残基ずつ削りながら読む

DNAでは、ナノポアを通過する際の電流変化から塩基配列を直接読み取る技術が実用化されています。

では、同じことをタンパク質でもできるでしょうか。

タンパク質は20種類のアミノ酸からなり、翻訳後修飾も存在します。また、DNAのように均一な高分子ではないため、ペプチドをナノポアへ通すだけでは安定した信号を得るのが難しいという問題があります。

今回開発された**tPAL(transient pore analyte looping)**では、engineered MspA nanoporeにペプチドそのものを固定します。

ペプチドのN末端はNTA-Ni adapterと一時的に結合し、離れては再び結合します。そのため、同じN末端を何度も読み直すことができます。

さらに、cholesterolized aminopeptidaseを使ってN末端のアミノ酸を1残基ずつ切り取ります。1残基短くなるたびにナノポアから得られる電流signalが変化するため、そのstepwiseな変化をつないで配列を読み取ります。    s41586-026-10881-1

この方法では、1アミノ酸置換だけでなく、翻訳後修飾や非天然アミノ酸も識別できました。

DNA sequencingが「DNA分子を直接読む」技術へ発展したように、proteomicsも将来的には1分子のproteinを直接読む時代へ向かうのかもしれません。

4品目:「折りたたまれないタンパク質」を設計する

近年のprotein designでは、目的とする三次元構造を作るアミノ酸配列を計算機やAIで設計する技術が急速に進んでいます。

ところが、細胞内のタンパク質には、そもそも一つの安定した立体構造を持たない**intrinsically disordered region(IDR)**が数多く存在します。

IDRは「構造がない」から機能がないわけではありません。柔軟なconformational ensembleを取りながら、分子間相互作用やシグナル伝達、biomolecular condensateなど、さまざまな機能を担っています。

今回開発された**GOOSE(Generate disOrdered prOteins Specifying propErties)**は、こうしたIDRを合理的に設計するための計算フレームワークです。

電荷、疎水性、アミノ酸組成、電荷の配置などを指定すると、それらの条件を満たすIDR配列を高速に作ることができます。

研究チームは数千種類の人工IDRを設計し、細胞内での広がり方、細胞体積変化への応答、自己集合などを調べました。さらに、自己集合するscaffold IDRと、そこへ選択的に集まるclient IDRまで設計しています。

最後には、酵母を乾燥から保護するIDRの設計にも挑戦しました。    s41586-026-10849-1

従来のprotein designが「どのように折りたたませるか」を考える技術だとすれば、今回は逆に、折りたたまれない状態そのものを機能として設計する研究です。

タンパク質設計の対象が、一つの立体構造から動的な構造集団へ広がり始めています。

5品目:ALKを阻害するのではなく、丸ごと分解する

ALK融合遺伝子を持つ非小細胞肺がんでは、ALKのkinase activityを抑えるTKIが大きな治療効果を示します。

しかし、長期間の治療では薬剤耐性変異が生じることがあります。従来のTKIはkinase active siteへ結合するため、その部分に変異が起これば薬が効きにくくなります。

今回報告されたTRI-611は、ALKの酵素活性を阻害する薬ではありません。

TRI-611はALK kinase domainと、ubiquitin ligaseの基質認識因子であるCRBNを近づける「molecular glue」です。

興味深いことに、形成されるALK–TRI-611–CRBN interfaceはkinase active siteから離れています。そのため、野生型ALKだけでなく、TKI-resistant mutationを持つALK fusion proteinも分解できました。    s41586-026-10998-3

細胞内ではALKがubiquitinationされ、proteasomeによって消失します。

さらにTRI-611はbrain penetrationを持ち、皮下腫瘍だけでなく、頭蓋内のALK-positive tumour modelでも腫瘍退縮を引き起こしました。既存のALK TKIとの併用も可能でした。

これまでの創薬は、病気を引き起こすタンパク質の「働きを止める」ことを中心に発展してきました。

Molecular glueは、標的タンパク質に本来存在しない新しい相互作用を作り出し、細胞自身の分解装置へ送り込むという別の考え方です。

6品目:細胞を壊さずにRNA-seqする

RNA-seqは、細胞がどの遺伝子をどの程度発現しているかを網羅的に調べる強力な方法です。

しかし大きな弱点があります。

RNAを取り出すためには、通常は細胞を壊さなければなりません。

そのため、「この細胞は今日どういう状態で、明日はどうなり、3日後にはどうなるのか」を同じ細胞について繰り返し測定することはできません。

今回のCell誌の研究では、この問題を逆転の発想で解決しました。

細胞のRNAを取り出すのではなく、細胞自身にRNAを外へ送り出してもらいます。

MMLV由来のGag proteinを利用すると、細胞内RNAを含んだvirus-like particle(VLP)が形成され、培養液中へ放出されます。

そこで培養液だけを繰り返し回収し、VLP内のRNAをsequenceします。細胞はそのまま生き続けるため、同じcell populationのtranscriptomeを時間を追って測定できます。    PIIS0092867426009323

実際に、炎症刺激を受けたprimary-cell spheroidや、数日間かけて分化するpluripotent stem cellで、遺伝子発現の時間変化を追跡できました。

さらに異なる細胞から出るVLPを区別できるようにしてco-cultureを解析したり、複雑なmicrophysiological systemの内部にある細胞の変化を外部から読み取ったりすることもできます。

これまでのtranscriptomicsでは、異なる時点の細胞を集めて時間変化を推定する「pseudotime」が広く使われてきました。

今回の方法では、同じ生きた系から実際のtime-series transcriptomeを得られることになります。

細胞を観察するのではなく、細胞自身に自分の状態を「レポート」してもらうというユニークな技術です。

7品目:ファージ自身のproteaseが細菌免疫のスイッチを入れる

細菌にもウイルスに対する免疫があります。

その一つが**CBASS(cyclic oligonucleotide-based antiphage signaling system)**です。ヒトのcGAS–STING系と進化的に関連する仕組みで、感染を感知するとCD-NTaseがcyclic nucleotide signalを作り、下流の防御反応を活性化します。

しかし、多くのCBASSがファージの「何」を感知しているのかは分かっていませんでした。

今回のScience誌の研究では、その答えの一つが意外な形で見つかりました。

細菌はファージのDNAを直接見ているのではなく、ファージがウイルス粒子を成熟させるために作るprohead proteaseの酵素活性を感知していました。

CD-NTaseには表面に露出したactivation loopがあります。

ファージproteaseがこのloopを切断すると、CD-NTaseが活性化され、cyclic nucleotide signalの合成が始まります。    science.aeg3949

つまりCBASS sensorは、proteaseへ結合する受容体を別に持っているわけではありません。

Sensor自身がファージproteaseの基質になっています。

侵入者がproteaseを使った瞬間に切れる「molecular tripwire」のような仕組みです。

しかもprohead proteaseは、ファージが新しいウイルス粒子を完成させるために必要な酵素です。単純に捨てて逃げることが難しい機能を宿主側が監視していることになります。

宿主とウイルスの長い進化的な攻防から生まれた、非常に巧妙な検出システムです。

8品目:p53を失うとWntの「量」ではなく「勾配」が生まれる

私たちの正常な組織にも、年齢とともにさまざまな遺伝子変異を持つ細胞が蓄積します。

しかし、変異した細胞が全て無制限に増えるわけではありません。

今回のScience誌では、代表的ながん抑制遺伝子p53を失った細胞が、正常な上皮組織の中でどのように領域を広げるのかが調べられました。

マウス表皮でp53を失うと、progenitor cellは分化するよりも自己複製する方向へ傾き、mutant cloneが徐々に拡大します。

興味深いのは、その原因が単純なcell-cycle controlの破綻だけではなかったことです。

p53は、Sfrp1、Lrp1、Usp22という複数の遺伝子を介してWnt signalingを抑えています。p53を失うとこれらの抑制が低下し、Wnt activityが高まります。

しかし、その上昇はclone全体で均一ではありませんでした。

Cloneの周辺ではWnt activityが低く、中心へ向かうほど徐々に高くなるradial gradientが形成されていました。    science.aed3065

さらに実験的にWnt activityの空間パターンを変えると、非常に興味深い結果が得られました。

平均的なWnt activityをp53欠損細胞より高くしても、組織全体で均一に上げるとclone expansionは遅くなりました。一方、gradientを保った状態では効率よくcloneが拡大しました。    science.aed3065

つまり重要なのは、Wntがどれだけ強いかだけではなく、どこで強いかでした。

細胞内のsignaling pathwayを理解するとき、「ONかOFFか」「何倍になったか」を測るだけでは十分ではない場合があります。

がん化の初期過程でも、シグナルの空間的な配置そのものが細胞集団の運命を決めているようです。

今週のまとめ

今週の8品には、一つの共通した流れが見えてきます。

生命科学は、生体分子を「見つけて観察する」段階から、その仕組みを理解して、読み、設計し、組み替え、操作する段階へ進んでいます。

Bridge recombinationでは、RNAが2つのDNAを配置し、その立体的なgeometryによって組換えの方向まで決まります。

Acanthamoebaでは、TCA cycle酵素のMDHがATP synthaseへ直接組み込まれ、代謝経路が構造的にも一つの装置として組織化されていました。

Nanoporeでは、ペプチドを1残基ずつ短くしながら配列を直接読み取ります。一方GOOSEは、安定した構造を持たないIDRの性質や相互作用を配列から設計します。

TRI-611は、病気の原因となるALKを単に阻害するのではなく、CRBNとの新しい相互作用を作り、細胞自身の仕組みを使ってタンパク質そのものを分解します。

測定方法も変わりつつあります。Live-cell transcriptomicsでは、細胞を壊してRNAを取り出すのではなく、生きた細胞にVLPを通して自分の状態を報告させます。

一方、CBASSでは細菌がファージのprotease activityを「罠」として感知し、p53欠損細胞ではWnt signalingの強さではなく空間的なgradientがcloneの拡大を制御していました。

DNAの配置、タンパク質の構造と揺らぎ、分子間相互作用、時間変化、そして組織内の空間パターン。

生命現象を理解するためには、分子の種類や量だけでなく、いつ、どこで、どのような形で存在しているのかを見ることがますます重要になっています。

今週も、構造生物学、生化学、protein design、計測技術、創薬、微生物免疫、がん生物学まで、生命科学の広がりを楽しむ時間となりました。

 
 
 

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Tokyo University of Science

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