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金曜CNSカフェ:今週のおすすめメニュー 生命は「配置」と「組み合わせ」で動く――這うアーキアから、巨大転写装置、銅による細胞死、臓器どうしの共同発生まで

3 日前
読了時間: 8分

今週もNature、Cell、Science誌の最新号から、気になった研究を持ち寄って金曜CNSカフェを開催しました。

今週の論文を並べてみると、共通して見えてくるのが、

「生命は、“何があるか”だけでなく、“何と組み、どこにあり、どの状態にあるか”で動いている」

ということです。

タンパク質がどの分子と複合体を作るか、細胞膜の上で何の隣にいるか、染色体が三次元空間でどう折りたたまれているか、さらには隣り合う臓器同士がどんなシグナルを交換するかまで、生命現象はさまざまな「配置」と「組み合わせ」によって変化します。

今週は、そんな生命のダイナミックな仕組みを読み解いた8報を紹介しました。

それでは、今週のおすすめ8品です。

1品目:20億年前の祖先も「這って」いた?――動くAsgard archaea

Nature|Dynamic protrusions mediate crawling motility in Asgard archaea

Asgard archaeaは、私たち真核生物に最も近い原核生物の仲間として注目されています。

これまでも細胞から細長い突起を伸ばす不思議な姿が知られていましたが、今回は生きた細胞を酸素のない環境で直接撮影することに成功しました。

すると、その突起は固定された飾りではなく、伸びたり縮んだりしながら、細胞を地面の上で引っ張って移動させていることが分かりました。

しかも、この運動には真核細胞でもおなじみのactinに似たLokiactinが関与していました。

つまり、動物の免疫細胞やアメーバが見せるような「這う運動」の原型は、真核生物が誕生する前のAsgard archaeaにすでに存在していたのかもしれません。

複雑な細胞がどのように進化したのかを、生きた“祖先の親戚”の動きから考えられるようになったところが面白い研究です。

関連ニュースではUniversity of Viennaが実際のtime-lapse動画も公開しており、Asgard archaeaが突起を動かして這う様子を見ることができます。

2品目:SWI/SNFは「舞台を整える裏方」ではなかった

Cell|Structural basis of a SWI/SNF-associated transcription pre-initiation complex

DNAからRNAを作る転写を始めるには、RNA polymerase IIを中心とした多くのタンパク質が集まる必要があります。

一方、DNAはhistoneに巻き付いてnucleosomeを作っているため、そのままでは読み取りにくく、SWI/SNFという装置がnucleosomeを動かしてDNAを読みやすくすると考えられてきました。

従来のイメージでは、

SWI/SNFがDNAを開く → 仕事を終える → 転写装置が集まる

という順番です。

ところが今回、cryo-EMで調べると、SWI/SNFはその場を離れるどころか、MediatorやRNA polymerase IIなどと一緒に約700万Daもの巨大な転写装置を作っていました。

さらにSWI/SNFとTFIIHという2つの分子motorが協調して、nucleosomeからDNAを引き出しながら転写開始へ導く姿も見えてきました。

つまりSWI/SNFは、

舞台を準備して帰る裏方ではなく、演奏が始まってもステージ上に残って働くメンバー

だったわけです。

3品目:悪いタンパク質を1個狙うのではなく、「細胞のお掃除機能」を強くする

Science|Stimulated protein degradation to promote mitochondrial function and neuronal survival

不要なタンパク質を細胞内で分解させる技術として、近年PROTACなどのtargeted protein degradationが注目されています。

基本的な考え方は、**「この悪いタンパク質を選んで捨てる」**というものです。

今回の研究では発想を変えました。

CUL2–FEM1Bという、細胞がもともと持っているstress-response型のタンパク質分解装置をsmall moleculeで活性化し、複数の不要なタンパク質をまとめて処理させる方法を開発しました。

著者らはこれを**stimulated protein degradation(SPD)**と呼んでいます。

SPDを働かせると、mitochondriaへのタンパク質輸送や呼吸鎖の形成が改善し、mitochondrial diseaseやFriedreich’s ataxiaのモデルでは神経細胞の生存も改善しました。

病気の原因を一つずつ狙うのではなく、

「細胞自身の品質管理能力を少し強くしてあげる」

という新しい治療戦略です。

4品目:がん細胞では「何を持っているか」だけでなく、「誰の隣にいるか」も重要

Nature|Proximity-guided graph learning reveals tumour-associated proximity antigens

がん細胞を狙う薬を作るときは、「正常細胞には少なく、がん細胞には多いタンパク質」を探すのが一般的です。

今回の研究では、タンパク質の**量ではなく“位置関係”**に注目しました。

細胞表面のタンパク質が「誰のすぐ隣にいるか」を大規模に調べ、AIを使ってがん細胞特有の組み合わせを探しました。

そこで見つかったのが、EGFRとCDCP1という2つのタンパク質の近接です。

この2つを同時につかむ抗体薬を作ると、どちらか一方だけを狙う場合より、がん細胞を効率よく攻撃できました。

つまり、

「このタンパク質がある」という情報だけでなく、「この2つが隣り合っている」という空間情報も薬の標的になる

ということです。

細胞表面を単なるタンパク質の一覧表ではなく、「地図」として読む発想が面白い研究です。

5品目:銅がMYH9を“固める”と、細胞骨格が崩れて細胞が死ぬ

Cell|Copper ion-induced MYH9 polymerization executes cuproptosis

銅は私たちの体に必要な元素ですが、多すぎると細胞にとって毒になります。

銅によって起こる細胞死はcuproptosisと呼ばれていますが、「最後に何が細胞を壊しているのか」は十分に分かっていませんでした。

今回、その実行役として見つかったのがMYH9というタンパク質です。

銅がMYH9に直接結合すると、MYH9同士が集まって大きなpolymerを作ります。その結果、細胞の形を支えているactin cytoskeletonが巻き込まれて崩壊し、細胞死へ進みます。

さらに興味深いことに、薬剤耐性を獲得したがん細胞では銅が多く蓄積しており、この特徴を逆に弱点として利用できる可能性も示されました。

つまり、

がん細胞が蓄えていた銅を利用して、自らの細胞骨格を壊させる

という治療戦略につながるかもしれません。

厦門大学からも、このcuproptosisの新しい実行機構について一般向けの研究紹介が公開されています。

6品目:「ストレスで髪が抜ける」を、神経と免疫から分子レベルで考える

Nature|A two-hit mechanism triggers autoimmune hair loss

自己免疫疾患では、自分自身の細胞を免疫系が誤って攻撃します。

では、なぜ特定の組織が、ある時だけ攻撃されるのでしょうか。

今回、マウスのhair follicleを調べたところ、免疫を抑えるTregを減らしただけでは、必ずしも脱毛は起こりませんでした。

毛が成長する時期にはsympathetic nerveの活動が高まり、hair follicle stem cellの中で普段は眠っているendogenous retrovirusが一時的に目を覚まします。

通常はTregがこの状態を安全に抑えています。

ところが、

神経活動によって毛包が攻撃されやすい状態になることとTregによる免疫抑制が失われること

の2つが重なると、CD8 T cellがhair follicleを攻撃し、脱毛が起こりました。

著者らがいう**「two-hit mechanism」**です。

「ストレスだけで脱毛する」という単純な話ではなく、正常な神経活動とimmune toleranceの破綻が重なったときに自己免疫が始まることを示した点が重要です。

7品目:遺伝子の「読み方」と「折りたたみ方」を同じ場所で見る

Cell|Integrative spatial profiling of 3D genome organization and gene expression in tissue

近年のspatial transcriptomicsによって、組織のどの場所でどの遺伝子が働いているかを調べられるようになりました。

しかし、遺伝子の働き方には、DNAが核の中でどのように折りたたまれているかという3D genome structureも重要です。

今回開発されたSpatial Hi-C-RNAでは、同じ組織の同じ場所から、

DNAがどことどこで接触しているかとどの遺伝子がRNAとして読まれているか

を同時に測定できます。

mouse brainやembryo、human melanomaに応用すると、RNAだけを見ると同じように見えるがん組織の中にも、DNAの折りたたみ方が異なる領域が存在することが分かりました。

つまり、

細胞のidentityは、どの遺伝子を使っているかだけでなく、ゲノムをどう折りたたんでいるかにも表れる

ということです。

8品目:臓器は一つずつ作られるのではなく、「隣同士で相談しながら」作られる

Science|Spatial coordination in the codevelopment of the human urogenital system during organogenesis

教科書では、腎臓、副腎、生殖腺はそれぞれ別の臓器として説明されます。

しかし発生途中のembryoでは、これらは非常に近い場所に並んでいます。

今回、ヒト胚の発生過程をspatial transcriptomicsとsingle-cell analysisで詳しく調べると、発生中のgonadは単独で運命を決めているのではなく、隣接するmesonephrosやadrenal primordiumからsignalを受けて形成されることが分かりました。

さらに、生殖腺を作る一部の細胞は、mesonephrosとの境界領域から移ってくる可能性も示されました。

副腎と精巣の間ではhormone productionにも役割分担があり、複数の臓器が協調しながらsex differentiationを進めています。

つまり発生は、

「臓器Aを作る」「次に臓器Bを作る」

という独立した工程ではなく、

隣り合う臓器同士がsignalや細胞をやり取りしながら、一緒に形を作っていく

過程だったということです。

今週のまとめ

今週の8報では、生命現象を決めるさまざまな「配置」と「組み合わせ」が見えてきました。

Asgard archaeaでは、actinと細胞膜の動的な組み合わせが這う運動を生みます。

SWI/SNFでは、chromatin-remodeling装置と転写装置が巨大なcomplexを作ることでDNAを読み始めます。

SPDでは、E3 ligaseの状態を切り替えることで細胞全体のprotein quality controlを変えます。

がん細胞では、細胞膜上でどのタンパク質が隣り合うかが新しい治療標的になります。

Cuproptosisでは、MYH9がpolymerを作るかどうかが細胞死を左右します。

自己免疫性脱毛では、神経活動とimmune toleranceの破綻が重なったときに病気が始まります。

Spatial Hi-C-RNAでは、ゲノムの三次元配置がRNA発現とは別の細胞情報を持っています。

そしてヒトの発生では、隣り合う臓器同士のcommunicationが、それぞれの運命を決めています。

生命を理解するには、分子の名前や遺伝子の配列だけを見るのでは十分ではありません。

「何と組んでいるのか」「どこに置かれているのか」「いつ、どの状態になっているのか」

を見ることで、初めて生命が動く仕組みが見えてきます。

今週は、分子から細胞、ゲノム、そして臓器まで、生命を動かす「配置と組み合わせ」を楽しむ金曜CNSカフェとなりました。

 
 
 

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