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金曜CNSカフェ:今週のおすすめメニュー 生命の構造・免疫・力を読み解く 膜タンパク質を包む設計分子から、RNAで細胞を選別するCRISPR、肝再生、脳のグリアネットワークまで

  • 7月3日
  • 読了時間: 7分

今週も、Nature誌とScience誌の最新号から、気になった研究を持ち寄って金曜CNSカフェを開催しました。

今回は、膜タンパク質を水中で安定化する設計タンパク質、ウイルスのような巨大タンパク質ケージ、RNAを検知して細胞を排除するCRISPR、植物免疫を制御する選択的スプライシング、力を感じて再生する肝臓、フェロトーシスを防ぐ代謝物、脳をつなぐアストロサイト、そして15億年の進化を学習した生成AIまで、幅広い話題がそろいました。

一見すると異なるテーマですが、いずれも生命が「構造」「情報」「力」「代謝」をどのように利用しているのかを明らかにする研究です。

それでは、今週のおすすめ8品です。

1品目:膜タンパク質を人工タンパク質で包む

膜タンパク質は、疎水性の表面を持つため、膜から取り出すと凝集しやすく、通常は界面活性剤や脂質粒子を使って扱います。

今回の研究では、膜タンパク質の疎水面を外側から覆う設計タンパク質WRAPを、RFdiffusionやProteinMPNNを使って作製しました。WRAPの内側は膜タンパク質へ結合し、外側は水に溶けるよう設計されています。

この方法により、βバレル型や複数回膜貫通型のタンパク質を、大腸菌の細胞質で直接発現し、水溶性画分から精製できました。リガンド結合や酵素活性も維持され、WRAPで包んだポリンの2.95 Åクライオ電子顕微鏡構造も決定されています。

膜そのものを再現するのではなく、疎水面に合わせた「人工の外套」を作るという発想です。膜タンパク質研究、抗体作製、創薬、ワクチン開発への応用が期待されます。

完全に対称な一成分タンパク質ケージでは、作れる構造の大きさに限界があります。一方、ウイルスは同じサブユニットを少しずつ異なる配置で使い、五角形と六角形を組み合わせた巨大な殻を作ります。

今回の2つの研究では、この「準対称性」を計算設計へ取り入れました。

二成分型では、三量体と二量体を組み合わせ、二量体の曲率を変えることで、直径40 nmから200 nmを超えるケージを作製しました。一成分型では、同じタンパク質がpentonとhexon周辺でわずかに異なる構造を取り、最大2,160サブユニット、直径220 nmのケージを形成しました。

完全な対称構造を直接作るのではなく、局所的な歪みと構造閉鎖のエネルギーを利用し、自然に対称性を破らせる設計です。大型cargoの封入、細胞内送達、細胞質の物性測定などへの応用も示されています。

Cas9やCas12aは、ガイドRNAに対応するDNAを特定の位置で切断します。しかし、真核細胞では切断が修復されるため、細胞そのものを確実に排除することは簡単ではありません。

Cas12a2は、標的RNAを認識すると活性化し、周囲の二本鎖DNAを非特異的に切断します。今回、この性質を利用して、特定のRNAを発現している酵母やヒト細胞だけを選択的に死滅させました。

HPV由来RNAを持つ細胞、遺伝子編集に失敗して標的転写産物が残った細胞、がん関連KRAS変異を持つ細胞の選別にも応用されています。

入力は特定のRNAですが、出力はRNA分解ではなく、修復しきれないほど多数のDNA二本鎖切断です。細胞の遺伝子型だけでなく、転写状態に基づいて細胞を選別するCRISPR技術といえます。

4品目:植物はスプライシングで免疫の安全装置を外す

植物は、細胞表面の受容体によるPTIと、細胞内のNLR受容体によるETIという二段階の免疫系を持っています。

ジャガイモ疫病抵抗性タンパク質Rpi-vnt1.1には、N末端に自己活性化を防ぐ抑制領域があります。この安全装置があるため、通常はresistosomeを形成できません。

病原体を細胞表面で検知すると、Rpi-vnt1.1 mRNAの選択的スプライシングが変化し、このN末端抑制領域を持たないアイソフォームが作られます。その後、病原体エフェクターを認識するとresistosomeが形成され、強い免疫応答が起こります。

表面免疫はNLRの量を増やすのではなく、mRNAの形を変えることで細胞内免疫を準備していました。自己免疫を防ぎながら、感染時には素早く反応する巧妙な仕組みです。

5品目:肝臓は張力を感じて再生を始める

肝臓は一部を切除されても、残った組織を増殖させて元の大きさへ戻ります。しかし、どの細胞が最初に増殖を始めるのか、その位置を決める仕組みは十分に分かっていませんでした。

今回、肝小葉の中間に位置するzone 2のDPP4陽性肝細胞が、再生を担う主要な細胞集団であることが示されました。

肝切除後、残存細胞が肥大すると、zone 2で膜張力や組織硬度が最も大きく上昇します。ここに多く発現するPIEZO1が力を感知して開口し、Ca²⁺流入とIGFBP2発現を介して細胞増殖を誘導します。

PIEZO1を欠損させると肝再生が遅れ、IGFBP2を補うと回復しました。肝臓は成長因子だけでなく、自らにかかる物理的な力を測り、再生を始める場所を決めています。

フェロトーシスは、鉄によって脂質過酸化が進むことで起こる細胞死です。今回、ポリアミンの一種であるスペルミンが、細胞内で鉄を直接捕らえる内在性キレート剤として働くことが示されました。

肝がん細胞では、ALDH18A1を介するグルタミン依存的な経路によってスペルミン合成が増加していました。増えたスペルミンがFe²⁺を捕らえ、脂質過酸化とフェロトーシスを抑えることで、がん細胞の生存を助けます。

ALDH18A1を阻害するとスペルミンが減少し、フェロトーシスが誘導され、肝がんの形成が抑えられました。

一方、正常組織の虚血再灌流障害では、スペルミン投与が肝臓、腎臓、腸の損傷を軽減しました。同じ代謝経路でも、がんでは抑え、急性臓器障害では利用するという治療上の二面性があります。

脳の領域間通信は、主にニューロンの軸索によって行われると考えられてきました。しかし、アストロサイトもgap junctionを介して物質や情報を共有しています。

今回の研究では、主要なgap junctionタンパク質Cx43にTurboIDを融合し、アストロサイト間を移動する分子を生体内でビオチン標識しました。その後、脳を透明化して三次元観察することで、アストロサイトネットワークを全脳レベルで可視化しました。

アストロサイトは脳全体で一つの連続体を作るのではなく、特定の領域を選択的に結ぶ複数のネットワークを形成していました。局所的なものだけでなく、左右の半球をまたぐ長距離ネットワークも見つかっています。

さらに、ヒゲからの感覚入力を遮断すると、成体脳でもネットワークが再編成されました。脳をつなぐのはニューロンだけではなく、可塑的なグリアネットワークも存在するようです。

8品目:15億年の進化から細胞の文法を学ぶ

一細胞RNA-seqを異なる生物種の間で比較する場合、共通するオルソログ遺伝子だけを使う必要があり、進化的に遠い生物ほど比較できる情報が減ってしまいます。

TranscriptFormerは、12種、1億1,200万個の細胞、15億3,000万年の進化をまたぐデータを学習した生成型基盤モデルです。

各細胞のトランスクリプトームを「cell sentence」として扱い、遺伝子名と発現量を順番に予測します。タンパク質配列の埋め込み情報を利用するため、明確な1対1オルソログがなくても、機能的に近い遺伝子を比較できます。

このモデルは、進化的に離れた生物間での細胞型分類、SARS-CoV-2感染や薬剤応答のzero-shot検出、発生軌道の再構成、遺伝子制御関係の予測を行いました。

15億年分のデータから、生命に共通する「遺伝子発現の文法」を学ぼうとする試みです。

今週のまとめ

今週の8品では、生命が構造、情報、力、代謝をどのように利用しているのかを、分子から細胞、臓器、脳、進化までさまざまなスケールで眺めました。

人工タンパク質は膜タンパク質を包み、準対称性は巨大なナノケージを作ります。Cas12a2はRNAを読み取って標的細胞のゲノムを破砕し、植物は選択的スプライシングによって免疫の安全装置を外します。

肝臓は物理的な張力をPIEZO1で感知して再生を始め、スペルミンは鉄を捕らえてフェロトーシスを防ぎます。脳ではアストロサイトが領域を越えた可塑的ネットワークを形成し、生成AIは15億年にわたる細胞進化の共通原理を学習します。

生命は、分子を作るだけでなく、組み立て、包み、変形させ、必要に応じて壊します。物理的な力や代謝物、RNAの加工状態まで情報として利用し、複雑な機能を生み出しています。

今週も、構造生物学から免疫、再生、神経科学、AIまで、生命科学の広がりを楽しむ時間となりました。

 
 
 

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