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金曜CNSカフェ:今週のおすすめメニュー 生命の情報は「配列」だけじゃない――構造を受け継ぐタウから、炎症で生まれるキメラRNA、BAX/BAKの新しい細胞死、電子触媒で血糖を下げるインプラントまで

10月23日
読了時間: 7分

今週もNature、Science誌の最新号から、気になった研究を持ち寄って金曜CNSカフェを開催しました。

今週の論文を並べてみると、共通して見えてくるのが、

「生命の情報は、DNAやRNAの配列だけではない」

ということです。

タンパク質の立体構造、染色体の空間配置、RNAの切り貼り、分子同士の組み合わせ、さらには「NMRで何も見えない」ということまで、生命はさまざまな形で情報を持っています。

今週は、そうした一見見えにくい「情報」を読み解いた8報を紹介しました。

それでは、今週のおすすめ8品です。

1品目:アルツハイマー病のタウは、「形」そのものをコピーする

Nature|Prion-like transmission of human tau strains in the mouse brain

アルツハイマー病などでは、tauというタンパク質が異常な線維を作って脳内に広がっていきます。

今回の研究では、アルツハイマー病と大脳皮質基底核変性症の患者から取り出したtau線維をマウス脳へ入れると、マウス自身のtauが、それぞれの病気に特徴的な形へ作り替えられることが分かりました。

さらにcryo-EMで原子レベルの構造を調べると、マウスで新しくできたtau線維は、最初に入れたヒト由来tauとほぼ同じ折りたたみ構造を持っていました。

つまり、tauではアミノ酸配列だけでなく、

「タンパク質がどのような形に折りたたまれているか」そのものが、次の分子へ伝えられる情報

になっていることになります。

いわゆる「プリオンのように伝播する」という考えを、構造レベルで非常にきれいに示した研究です。

関連ニュース: この研究には東京都医学総合研究所の研究グループも参加しており、日本語のプレスリリースも公開されています。東京都「マウス脳におけるタウのプリオン様伝播の実証」

2品目:炎症が起こると、離れた遺伝子同士から「合体RNA」が作られる

Nature|Functional chimeric mRNAs encode proteins in mammalian immunity

通常、1つのmRNAは1つの遺伝子から作られる、と考えます。

ところが今回の研究では、炎症を起こした免疫細胞の中で、別々の場所にある遺伝子から作られたRNA同士がつながり、キメラmRNAを作ることが分かりました。

しかも偶然つながった不要なRNAではありません。

炎症によって染色体の立体配置が変わり、離れていた遺伝子が核内で近づくことでRNA同士がつながります。そして、そのキメラRNAから実際に新しいタンパク質が作られます。

代表例のGSDMD–TMEM106Aは、免疫細胞が膜に穴を開けて炎症性物質を放出する働きを助けていました。

つまり細胞は、ゲノムを書き換えなくても、

必要なときだけ別々の遺伝子を組み合わせ、新しいタンパク質を作る

ことができるわけです。

3品目:BAXとBAKは「穴を開けるだけ」ではなかった

Science|BAK and BAX form a multiprotein complex to drive mtDNA efflux and caspase-independent cell death

BAXとBAKは、細胞が自ら死ぬapoptosisを起こす代表的なタンパク質です。

これまでは、BAX/BAKがミトコンドリア膜に穴を開け、cytochrome cを外へ出すことでapoptosisが始まる、と説明されてきました。

今回の研究では、もう一つ別の仕組みが見つかりました。

BAX/BAKはVDACやprohibitinなどと大きなタンパク質複合体を作り、こちらはcytochrome cではなく、ミトコンドリアDNA(mtDNA)を細胞質へ放出します。

つまり同じBAX/BAKでも、

小さな複合体ではcytochrome cを出してapoptosisへ、別の大きな複合体ではmtDNAを出して別タイプの細胞死へ

と、組み合わせによって仕事が変わります。

著者らは後者の細胞死をbaciptosisと名付けました。

教科書でおなじみのBAX/BAKにも、まだ別の顔があったという研究です。

4品目:50年間信じられてきたアーキアの「細胞壁」の構造が違っていた

Nature|A methanogen hydrolase reveals the structure of archaeal peptidoglycan

細菌はpeptidoglycanという丈夫な細胞壁を持っています。

一方、一部のmethanogenic archaeaにも似た構造があり、pseudomureinと呼ばれてきました。しかし、詳しく分解して調べる道具がなかったため、その化学構造には約50年間分からない部分が残っていました。

今回、研究者たちはArmAという細胞壁を分解する新しい酵素を発見しました。

この酵素を「ハサミ」として使って細胞壁を細かく切り、質量分析やNMRで調べたところ、これまで知られていなかった糖N-acetylarmosamineが見つかりました。

さらに糖同士のつながり方も従来のモデルとは異なっていました。

ArmAをなくすと細胞分裂後に細胞同士を切り離せなくなることも分かり、

新しい酵素の発見から、細胞壁の構造と細胞分裂の両方が見えてきた

研究です。

5品目:DNA複製が止まると、cohesinが離れた複製装置同士をつなぐ

Nature|Cohesin reshapes replication fork contacts to aid fork slowing and reversal

DNAをコピーしている途中で傷害などにぶつかると、replication forkは一度速度を落とし、壊れないように形を変えます。

今回注目されたのは、染色体をループ状にまとめるcohesinです。

新しく開発されたRepli-Cという方法で、DNA複製中の領域同士が三次元空間でどこに接触しているかを調べたところ、複製が止まるとcohesinが離れたreplication fork同士を近づけることが分かりました。

この配置換えによって、細胞は無理にDNA合成を続けるのではなく、forkをいったん後退させて保護する経路を選びやすくなります。

つまりDNA damage responseは、一本のDNA上だけで起こっているわけではありません。

染色体全体の三次元配置を組み替えることも、DNAを守る仕組みの一部

でした。

6品目:NMRで「見えなかった」ことが、実は貴重な情報だった

Nature|Learning millisecond protein dynamics from what is missing in NMR spectra

NMRを使ってタンパク質を調べると、すべてのアミノ酸からきれいなsignalが得られるとは限りません。

これまでは、こうした「見えない部分」は解析できなかったデータとして扱われがちでした。

ところがタンパク質が非常に速く形を変えていると、その動きのためにsignalがぼやけ、見えなくなることがあります。

そこで研究者たちは、約1万種類のタンパク質について、

「どのアミノ酸のNMR signalが欠けているか」

をAIに学習させました。

すると、酵素反応や分子認識のときに動く場所を予測できるようになりました。

さらに新しいタンパク質でNMR実験を行うと、AIが「ここが動く」と予測した場所で実際に動きが観測されました。

データがないこと自体をデータとして利用する。

発想の転換が面白い研究です。

7品目:RNAでは「イントロンを捨てない」ことにも意味がある

Science|Intron retention regulates STAT2 function and associates with immunotherapy response in lung cancer

遺伝子からmRNAが作られるとき、通常は不要なintronが取り除かれ、必要なexonだけがつながれます。

ところが今回、肺がんで免疫反応を制御するSTAT2という遺伝子を調べると、特定のintronをあえて残したRNAが重要な働きを持つことが分かりました。

どのintronを残すかによってSTAT2タンパク質の働きが変わり、interferonという免疫signalの強さも変化します。

さらに過去の肺がん臨床試験を調べると、このintron retentionのパターンと免疫checkpoint阻害薬atezolizumabによる治療成績との関連も見つかりました。

まだ将来の臨床試験で確認する必要がありますが、

「捨てられるはずの配列を残すかどうか」が、がん免疫の状態を表す情報になる

可能性を示しています。

8品目:薬を使わず、電子触媒で血糖そのものを減らす

Science|Wireless electrocatalytic closed-loop system for drug-free management of diabesity

最後はかなり未来感のある研究です。

糖尿病では通常、insulinなどを使って体に「血液中のglucoseを細胞へ取り込みなさい」と働きかけます。

今回の研究では発想を変えました。

体内に小さな電気触媒をimplantし、余分なglucoseそのものをgluconateへ化学変換してしまうという方法です。

市販のcontinuous glucose monitorで血糖を監視し、血糖が上がるとsmartphoneを介してimplantをwirelessでONにします。正常値まで下がれば自動的にOFFになります。

糖尿病モデルマウスでは血糖を自動制御でき、長期試験では体重減少もみられました。

もちろん、まだマウスでのproof-of-conceptであり、人に使える治療法になったわけではありません。

それでも、

「薬で体の代謝を変える」のではなく、「電子機器が余分な代謝物を直接処理する」

という新しい発想です。

この研究は一般向けにも注目されており、ETH Zurichも「electronics instead of drugs」という切り口で紹介しています。関連ニュース:電子インプラントで血糖を下げる研究

今週のまとめ

今週の8報を並べると、生命が扱う「情報」の種類の多さに驚かされます。

tauではタンパク質の形。

キメラmRNAでは染色体の位置関係。

BAX/BAKではタンパク質の組み合わせ。

アーキアでは糖の化学構造。

DNA複製では染色体の三次元配置。

NMRでは、逆にsignalが見えないこと。

STAT2ではRNAから何を残すか。

そしてECHOでは血糖値そのものを電子機器が読み取っています。

生命の情報というと、ついDNAの塩基配列を思い浮かべます。

しかし実際の細胞では、

「どんな形をしているか」「どこにいるか」「誰と組んでいるか」「どのくらい動いているか」

までが情報として利用されています。

今週は、そんな「配列の先にある情報」をさまざまな角度から楽しむ金曜CNSカフェとなりました。

 
 
 

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