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金曜CNSカフェ:今週のおすすめメニュー 構造から免疫、ゲノムまで「設計する」――マラリア侵入阻害、人工免疫、分子接着剤、そして光を使わない超解像へ

9月4日
読了時間: 8分

今週のCell、Nature、Scienceでは、生命現象の仕組みを理解したうえで、それを人工的に再設計する研究が特に目立ちました。

マラリア原虫が赤血球へ侵入するときに使う巨大な分子装置を構造解析し、その情報から侵入阻害タンパク質を作る研究。病原体に合わせて植物の免疫受容体そのものを設計する研究。CRISPR–Casが他の抗ファージ防御システムを監督しているという多層免疫。そして、タンパク質間相互作用やゲノム編集を人工的に操作する新しい技術へと続きます。

後半では、腫瘍がT細胞からROSシグナルを奪う意外な免疫逃避機構、異なる神経変性疾患に共通するTOP1依存的DNA損傷、さらにレーザーを使わずに長時間の超解像観察を可能にする新しい顕微鏡法を取り上げます。

それでは、今週のおすすめ8品です。

1品目:マラリア原虫の侵入装置を構造から解き、阻害タンパク質を設計する

Cell | Full Text DOI: 10.1016/j.cell.2026.06.012

マラリア原虫が赤血球へ侵入するときには、原虫と宿主細胞の境界にmoving junctionと呼ばれるリング状の構造が形成されます。しかし、この複合体がどのように赤血球膜へ結合し、原虫侵入を助けているのかは長年十分に分かっていませんでした。

今回、Plasmodium falciparumからnativeなAMA1–RON2–RON4–RON5複合体を単離し、cryo-EMによってその立体構造が決定されました。複合体は著者らが「sailboat」と表現する特徴的な形をとり、RON2/4/5の赤血球膜側には広大な正電荷面と多数のamphipathic helixが存在します。これらのhelixだけでもliposome膜を変形できることから、moving junctionは単なる接着点ではなく、宿主膜を積極的にremodelする分子装置であることが示されました。 

さらに面白いのが、この構造をそのまま創薬へつなげた点です。AMA1上のRON2-binding siteと膜との位置関係を考慮し、BindCraftを用いて180種類の小型binderをde novo設計。その中から選ばれたA2は、実際にマラリア原虫の赤血球侵入をdose-dependentに阻害しました。

「構造を解く」ことが、そのまま「機能を止める分子を作る」ことにつながった、今週を象徴する研究です。

2品目:病原体を指定して植物免疫受容体を一から作る

Science | Full TextDOI: 10.1126/science.aee1792

植物の病害抵抗性育種では、病原体を認識する天然のR geneを探して利用する方法が中心です。しかし、病原体は急速に進化する一方、新しい抵抗性遺伝子を自然界から探索するには長い時間がかかります。

今回開発された**SPIR(synthetic plant immune receptor)**では、この考え方を逆転させました。まず病原体タンパク質の構造をAlphaFold 3で予測し、BindCraftでそのタンパク質に結合するbinderをde novo設計。それをNLR型免疫受容体Pikm-1のintegrated decoy domainと置き換えることで、認識対象を人工的に指定します。ウイルスだけでなく、細菌、菌類、卵菌由来のタンパク質まで認識する受容体が作製されました。

さらに、AIによる設計だけでは生じるautoactivationや低活性を、SolubleMPNNとGRAPEによるin planta directed evolutionで改善しています。つまり、AIで作って、植物の中で進化させて仕上げるという二段階の設計です。

最終的には、実際のplant virusを認識し、SPIRを安定発現させた植物に感染抵抗性を与えることにも成功しました。

自然界に抵抗性遺伝子が現れるのを待つのではなく、次に現れる病原体に合わせて免疫受容体を設計する時代が見えてきます。

Nature | 日本語要約 | Full TextDOI: 10.1038/s41586-026-10833-9

細菌はCRISPR–Casだけでなく、Sir2–HerA、Gabija、Thoerisなど非常に多様な抗ファージ防御系を持っています。では、これらはそれぞれ独立に働いているのでしょうか。

今回発見されたのは、**CRISIS(CRISPR-supervised immune system)**と呼ばれる多層的な防御機構です。

一部のtype I CRISPR–Cas locusには別の抗ファージ防御遺伝子が組み込まれており、小型のcrRNA-like RNAがCascadeをそれらのpromoterへ誘導します。通常時にはこれによって防御系の発現をbasal levelに抑え、過剰な免疫活性化によるfitness costを防いでいます。

ところがanti-CRISPRなどによってCRISPR–Casが阻害されると、この抑制が解除され、埋め込まれていた自然免疫系が一気に活性化します。防御力は高まりますが、その代わり細菌自身の増殖や有益なplasmid保持にはコストが生じます。

つまりCRISPR–Casは、ファージを直接排除するadaptive immunityであるだけでなく、自分が突破されたときに作動するbackup defenceを監督する司令塔でもありました。

4品目:がん遺伝子を壊さず、「働き方」を変える分子接着剤

Cell | Full TextDOI: 10.1016/j.cell.2026.06.037

PROTACなどに代表されるinduced proximity技術では、標的タンパク質を分解へ導くことがよく知られています。しかし今回の研究では、タンパク質を壊すのではなく、普段出会わない2つのタンパク質を接触させて、新しい機能を生み出すという戦略が取られています。

TCIP3という二価の分子接着剤は、B細胞リンパ腫のoncogenic transcription factorであるBCL6と、lysine acetyltransferaseであるp300/CBPを結び付けます。

X線結晶構造では、化合物による橋渡しだけでなく、BCL6とp300の間に偶然生まれた新しい水素結合などのneo-protein–protein interactionが、ternary complexを協同的に安定化していることが分かりました。

細胞内ではp300/CBPがBCL6の結合領域へ再配置され、局所的なhistone acetylationと転写が変化します。一方で、oncogenic super-enhancer側ではacetylationが低下します。つまりp300の活性を単純に阻害するのではなく、p300が働く場所そのものを再配線しているわけです。

最終的にはマウスのDLBCLモデルで強力な腫瘍消失効果も示されました。

がん遺伝子を分解せず、別のタンパク質を連れてきて「裏切らせる」という発想が印象的なchemical biologyです。

Nature | 日本語要約 | Full TextDOI: 10.1038/s41586-026-10819-7

CRISPR–Cas9を用いた大きなDNA断片のknock-inでは、DNA二本鎖切断(DSB)が利用されます。しかしDSBはindel、chromosome translocation、off-target editingなどの原因にもなります。

今回開発されたKNIT(CRISPR kilobase-scale nickase-targeting)editingでは、Cas9 nickaseでDNAの片鎖だけを切断し、同時にbiotin–streptavidin系を使ってdonor DNAをその近傍へ呼び寄せます。donorを物理的に近づけることで、通常は効率の低いsingle-nick HDRを大幅に高めています。

この方法により、0.7 kbから10 kbを超えるDNA断片をさまざまなgenomic locusへ挿入でき、条件によっては最大89%という高い編集効率に達しました。その一方で、Cas9によるDSB型editingと比べてindel、translocation、off-target insertionが大幅に減っています。

さらにhuman primary T cellへCAR cassetteを非ウイルス的にknock-inし、作製したCAR-T細胞がin vitroおよびマウスで抗腫瘍活性を示すところまで進んでいます。

「DNAを大きく書き込むには二本鎖を切らなければならない」という前提を変える可能性のある技術です。

6品目:がん細胞はT細胞からROSシグナルを「盗む」

Science | Full TextDOI: 10.1126/science.adz8203

ROSはDNA損傷やoxidative stressを引き起こす「有害な分子」というイメージがあります。しかし、免疫細胞では適度なROSが重要なsignalling moleculeとして働きます。

今回、腫瘍のinterstitial fluidには非常に強いantioxidant activityがあり、特に**peroxiredoxin 1(PRDX1)**が高濃度に存在することが分かりました。腫瘍細胞が放出したPRDX1はT細胞のROSを除去し、TCR signallingを抑えます。

TCRが活性化すると通常、ROSによってprotein phosphataseが一時的に酸化され、kinase signallingが維持されます。ところがPRDX1がROSを除去するとphosphataseが働き続けるため、ERKやAKTなどのphosphorylationが弱まり、IFN-γ産生などのT細胞機能が低下します。

逆に腫瘍細胞からPRDX1を欠損させるとCD8⁺ T cellの活性が高まり、一部のモデルではanti-PD-1+anti-CTLA-4への反応性も改善しました。

がん細胞は免疫細胞へ直接抑制シグナルを送るだけでなく、T細胞が使うredox signalそのものを消してしまうという新しい免疫逃避機構です。

7品目:ALS、FTD、Alzheimer病に共通するTOP1依存DNA損傷

Cell | Full TextDOI: 10.1016/j.cell.2026.06.013

ALS、FTD、Alzheimer病は異なる病理を示す神経変性疾患ですが、今回のsingle-cell whole-genome sequencingから、驚くほど共通したsomatic mutation patternが見つかりました。

疾患ニューロンではsIndelが増加し、特に2-bp deletionが顕著でした。さらにこれらは共通のID-A mutation signatureを示し、正常な老化ニューロンなどで知られるCOSMIC ID4とよく似ています。

詳細な配列解析とTOP1 cleavage complexの測定から、この変異はTOP1を介したribonucleotide excision repairの異常によるものと考えられます。酸化DNA損傷に伴ってDNAへ誤って取り込まれたribonucleotideをTOP1が処理する過程で、2-bp deletionやpersistent single-strand breakが蓄積します。

一部の疾患ニューロンでは数千ものsIndelが蓄積しており、正常な高齢ニューロンの200~300程度と比べると、極端に加速したゲノム老化状態にあります。

原因遺伝子や病理が異なる神経変性疾患が、oxidative stress → TOP1 dysregulation → genome instabilityという共通経路へ収束する可能性を示した研究です。

Nature | 日本語要約 | Full TextDOI: 10.1038/s41586-026-10889-7

今週のNature誌のCover Storyです。

従来のsuper-resolution microscopyでは外部からレーザー光を当てて蛍光分子を励起します。しかし、強い光はphotobleachingやphototoxicityを引き起こし、特に長時間のlive-cell imagingでは問題になります。

今回開発された**RIED(luminescent-reaction-enabled super-resolution imaging via entropy-weighted correlation combined with deconvolution)**では、レーザーの代わりに、

  • electrochemiluminescence(ECL)

  • chemiluminescence(CL)

  • bioluminescence(BL)

などの化学反応によって自然に生じるphotonを利用します。時系列の光子変動をspatiotemporal correlationとentropy解析で再構成することで、低いphoton budgetからsuper-resolution imageを得ます。

microtubuleでは従来のECLの約327 nmから約97 nmまでresolutionが向上し、蛍光を利用したsuper-resolution法と同程度の解像度を達成しました。

さらにbioluminescenceを使うことでphototoxicityを大幅に減らし、41時間にわたる連続super-resolution live-cell imagingを実現。細胞間を移動するmitochondriaの全軌跡まで追跡しています。

「光を当てて見る」から、「生化学反応が生む光で見る」へ。顕微鏡の考え方そのものを変える研究です。

今週のまとめ

今週の8報を並べてみると、生命科学の「設計」の対象が急速に広がっていることがよく分かります。

マラリア論文では、nativeなhost–pathogen complexの構造から感染阻害タンパク質を設計しました。SPIRでは、病原体タンパク質を指定して植物免疫受容体そのものを作っています。

CRISISの研究からは、自然界のCRISPR–Casも単独で働くのではなく、複数の防御系を階層的に管理する高度なimmune networkであることが分かりました。そして分子接着剤では新しいprotein–protein interactionを人工的に作り、KNITではDNA二本鎖を切らずに大きな遺伝情報を書き込めるようになっています。

一方、疾患側を見ると、腫瘍はT細胞が利用するROSという化学シグナルを奪い、神経変性疾患では異なる病態がTOP1依存的な共通のDNA damage pathwayへ収束していました。

そして最後のRIEDでは、生命現象を操作するだけでなく、どう観察するかという測定原理そのものまで化学反応から再設計されています。

構造を解く。仕組みを理解する。その原理を利用して、タンパク質、免疫、相互作用、ゲノム、そして観察技術まで作り直す。

今週のCell、Nature、Scienceは、生命科学が「理解する科学」から**「理解した仕組みを使って設計する科学」へ進んでいること**を強く感じさせるラインナップでした。

 
 
 

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