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金曜CNSカフェ:今週のおすすめメニュー 伊豆から眺める今週の生命科学

  • 7月17日
  • 読了時間: 7分

今週は、木曜・金曜に研究室ゼミ旅行で静岡県沼津市戸田に来ています。

そのため、いつものお茶机周辺ではなく、出張先からのリモート開催として金曜CNSカフェを行いました。


今週はNature誌とScience誌から8報を選びました。テーマは、人工電気シナプスによる神経回路編集、樹状突起での並列計算、RNA誘導ヌクレアーゼの設計、RNA修飾酵素NSUN2、リボソームE部位を標的とする抗生物質、HuR分子グルー、αKGとDNA修復、そして腫瘍内三次リンパ様構造です。

戸田の海を眺めながら、いつもとは少し違う雰囲気で、今週の生命科学を見ていきました。

一見すると幅広い内容ですが、共通しているのは、生命システムを「読む」だけでなく、「つなぐ」「設計する」「分解する」「再構成する」という視点です。

それでは、今週のおすすめ8品です。


1品目:人工電気シナプスで脳回路を編集する

脳の情報処理は、異なる神経細胞集団の間で生じる電気的・化学的な信号伝達によって支えられています。しかし、特定の2種類の細胞間だけに新しい電気的接続を作り、その回路機能を長期的に変える方法は限られていました。

この研究では、魚由来のconnexin 34.7とconnexin 35をもとに、特定の組み合わせでのみドッキングする人工的な電気シナプスを設計しました。これにより、異なる細胞種の間に選択的なgap junctionを作り、神経回路の通信を強める技術「LinCx」が開発されました。

マウス脳では、前頭前皮質の興奮性ニューロンとPV陽性介在ニューロンの間にこの人工電気シナプスを導入し、神経回路活動と行動を変化させることが示されました。光遺伝学や薬理学的操作とは異なり、回路接続そのものを編集するという発想が印象的です。

2品目:樹状突起はニューロン内の並列計算ユニット

Parallel independent voltage computing along dendrites of CA3 pyramidal neurons(Science)

ニューロンは、細胞体に入力を集めて発火する単純な素子として説明されることがあります。しかし実際には、樹状突起そのものが複雑な情報処理を行うことが知られています。

この研究では、マウスがバーチャルリアリティ環境で空間探索を行っている間に、海馬CA3錐体ニューロンの細胞体と複数の樹状突起から電位を同時に記録しました。高速電位イメージングにより、樹状突起ごとに独立した電位変化や、細胞体との結合・脱結合が行動条件に応じて変化することが示されました。

特に興味深いのは、樹状突起の中に現在の場所だけでなく、過去や未来の空間表現が同時に含まれるという点です。1個のニューロンの内部に、複数の計算区画が並列に存在していることを示す研究です。

3品目:RNA誘導ヌクレアーゼを構造と進化から設計する

Structure and evolution-guided design of minimal RNA-guided nucleases(Science)

CRISPR-Casに代表されるRNA誘導ヌクレアーゼは、ゲノム編集技術の中心的な道具です。これまでは自然界から有用な酵素を探すことが多く行われてきましたが、今後は構造情報と進化情報をもとに、人工的に設計する方向へ進む可能性があります。

この研究では、Cas12様ヌクレアーゼの祖先型と考えられる小型酵素TnpBを対象に、構造に基づくinverse foldingモデルと進化的制約を組み合わせて、新しいRNA誘導ヌクレアーゼSynTnpBを設計しました。設計されたタンパク質の中には、細菌、植物、ヒト細胞で天然型と同等またはそれ以上の編集活性を示すものがありました。

さらに、最も変化の大きい設計変異体のクライオEM構造から、AI設計によって導入された残基がRNA–DNA界面を安定化していることが分かりました。自然界から酵素を探す時代から、構造原理に基づいて酵素を作り直す時代への流れを感じる研究です。

4品目:NSUN2はRNAの形を読んでm5C修飾を入れる

RNAには、mRNA、tRNA、rRNAなどの配列情報に加えて、多様な化学修飾が加えられます。5-メチルシトシン(m5C)はその代表的な修飾の一つで、NSUN2は多くのRNAにm5Cを導入する重要なRNAメチルトランスフェラーゼです。

この研究では、NSUN2がどのようにRNA基質を選び、標的シトシンを活性部位へ配置するのかを、複数のクライオEM構造と生化学実験によって明らかにしました。NSUN2はRNA全体を漠然と認識するのではなく、標的Cを含むCNNRRモチーフと、bulgeでつながれたdual-stem構造を好んで認識することが示されました。

RNA修飾酵素の基質選択性は、単純な配列モチーフだけでは説明できません。RNAの局所構造と酵素表面の相互作用が、どのRNAのどのシトシンを修飾するかを決めていることが分かります。

5品目:リボソームE部位を標的とする新しい抗生物質

抗生物質の多くは、細菌の翻訳装置であるリボソームを標的にします。よく知られた翻訳阻害剤は、A部位、P部位、ペプチド出口トンネルなどに作用しますが、E部位を標的とする抗菌薬はあまり知られていません。

この研究では、Streptomyces rimosusから新しい環状デプシペプチド抗生物質manikomycinが同定されました。manikomycinは細菌リボソーム大サブユニットのE部位に結合し、tRNAの3′末端がE部位へ入るのを妨げることで、翻訳のtranslocationを阻害します。

興味深いのは、この化合物が、よく知られた抗生物質生産菌から見つかった点です。天然物探索は掘り尽くされたわけではなく、分画や解析方法を工夫することで、見落とされていたminor productから新しい作用機序の抗生物質が見つかる可能性があります。

6品目:HuRを分子グルーで分解してBRAF変異大腸がんを抑える

分子グルーは、標的タンパク質とE3ユビキチンリガーゼを近づけ、標的を分解へ導く小分子です。先週はKAT2Aを標的とするCRBN分子グルーを紹介しましたが、今週はRNA結合タンパク質HuRを分解する分子グルーです。

この研究では、CRBN結合化合物ライブラリとプロテオミクス解析を組み合わせ、HuRをCRBN依存的に分解するdHuRが同定されました。クライオEM構造から、dHuRがCRBNの表面を再構成し、HuRのG-loop degronを取り込む三者複合体を作ることが分かりました。

HuR分解によってBRAF pre-mRNAのexon 18 skippingが誘導され、BRAFタンパク質量とMAPKシグナルが低下します。その結果、BRAF変異型大腸がん、特にBRAF阻害薬耐性を持つがん細胞の増殖が抑制されました。RNA結合タンパク質を分解することで、スプライシングを介してがんシグナルを制御する点が非常に面白い研究です。

7品目:αKG–カルニチン経路がDNA修復を支える

α-ケトグルタル酸(αKG)は、TCA回路の代謝物であると同時に、αKG依存性ジオキシゲナーゼの補因子としても働きます。これまでは、DNAやヒストンの脱メチル化との関係がよく注目されてきました。

この研究では、αKGがTMLHE依存的なカルニチン合成を通じてヒストンアセチル化を促進し、相同組換え修復を支えることが示されました。αKGを低下させると、HR proficientながん細胞がPARP阻害剤、シスプラチン、放射線などのDNA損傷剤に感受性になります。

つまり、αKGは脱メチル化を支えるだけでなく、カルニチン合成を介して核内acetyl-CoAとヒストンアセチル化を支える役割も持ちます。代謝、クロマチン、DNA修復、がん治療抵抗性が一つの経路としてつながる研究です。

8品目:樹状細胞が腫瘍内TLSを作り維持する

Dendritic cells control tertiary lymphoid structure development and maintenance in cancer(Science)

三次リンパ様構造(TLS)は、がん組織などの慢性炎症部位に形成されるリンパ節様の免疫構造です。TLSの存在は、がん患者の予後や免疫チェックポイント阻害薬への応答と関連することが知られています。

この研究では、腫瘍内TLSの形成と維持に、成熟したtype 1 conventional dendritic cells(cDC1)が重要であることが示されました。初期にはcDC1が腫瘍所属リンパ節へ移動し、T細胞を活性化して腫瘍内へ呼び込みます。腫瘍が進行すると、cDC1は腫瘍内のCCL19陽性stromal hubへ集まり、CD4 T細胞とCD8 T細胞へ同時に抗原提示することで、TFH細胞、TPEX細胞、胚中心形成、腫瘍特異的IgG産生を支えます。

TLSは、単にリンパ球が集まった構造ではありません。成熟cDC1が抗原提示と空間的な細胞配置を通じて組織化する、腫瘍内の局所免疫ハブとして理解できます。

今週のまとめ

今週の8品では、神経回路、RNA、リボソーム、分子グルー、代謝、DNA修復、腫瘍免疫を横断しました。

人工電気シナプスは神経細胞間の接続を作り、樹状突起は1個のニューロン内で並列計算を行います。RNA誘導ヌクレアーゼは構造と進化情報から設計され、NSUN2はRNAの局所構造を読んでm5C修飾を導入します。

manikomycinはリボソームE部位という新しい抗菌薬標的を示し、HuR分子グルーはRNA結合タンパク質を分解してがんシグナルを抑えます。αKG–カルニチン経路はヒストンアセチル化とDNA修復を支え、成熟cDC1は腫瘍内TLSを組織化します。

生命システムは、分子、細胞、回路、組織の各階層で、つながり方を変え、情報を読み取り、必要な構造を作り直しています。今週は、その「編集」と「再構成」の多様な姿を眺める回となりました。

 
 
 

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