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金曜CNSカフェ:今週のおすすめメニュー タンパク質の日焼け止め、細胞の分裂カウンター、未知酵素の探索からde novoタンパク質設計まで

  • 5 日前
  • 読了時間: 9分

今週もCell、Nature、Scienceから、生命科学の幅広い分野で気になった論文をピックアップしました。

今週は、タンパク質凝縮体が葉緑体を光から守る仕組み、プリオンによる突然変異率の制御、AlphaFold構造データベースを利用した未知酵素の発見、β-arrestinを直接制御する小分子、幹細胞が分裂回数を「数える」仕組みなど、生命がさまざまな情報を読み取り、記憶し、応答へと変換する研究が多く見られました。

さらに、ファージ感染による宿主DNA分解の検知、de novoタンパク質設計による新しい蛍光タグ、virome全体を対象としたウイルスタンパク質機能解析まで、今週も盛りだくさんです。

それでは、今週のおすすめ8品です。

1品目:タンパク質凝縮体が葉緑体の「日焼け止め」になる

Cell

植物は光合成のために光を必要としますが、強すぎる光は葉緑体内で一重項酸素(¹O₂)などの活性酸素種を発生させ、光障害を引き起こします。今回の研究では、MBS1というタンパク質が¹O₂を感知し、葉緑体を守る仕組みが明らかになりました。

MBS1はC2H2型zinc fingerと、その両側に存在する天然変性領域を持っています。強光によって¹O₂が生じるとzinc fingerの状態が変化し、MBS1が凝縮体を形成します。興味深いことに、この凝縮体は葉緑体表面を覆い、単なるシグナル伝達の場ではなく、実際に入射光を散乱して葉緑体内部へ届く光を減らす「日焼け止め」のような役割を果たしていました。

さらにイネでOsMBSの発現を高めると、強光条件下で¹O₂の蓄積や光化学系IIの障害が抑えられ、複数年・複数地域の圃場試験で収量増加も確認されました。タンパク質の相分離が、細胞内反応を制御するだけでなく、光そのものを物理的に制御する材料として働くという、とても印象的な研究です。

2品目:プリオンが突然変異率を変えて進化速度を調節する

Cell

プリオンというと神経変性疾患に関連する異常タンパク質を思い浮かべますが、酵母ではタンパク質の自己集合状態を利用した生理的なプリオンも存在しています。

今回の研究では、DNA複製やDNA修復に関わるタンパク質がプリオン状態へ変化することで、細胞の突然変異率が上がったり下がったりすることが示されました。つまりDNA配列そのものを変えることなく、タンパク質の構造状態によって「どれくらい遺伝子を変化させやすくするか」を世代を超えて調節できます。

特に興味深いのはMph1で、これはヒトFANCMに対応するDNA修復因子です。プリオン化によってDNA修復経路の利用状態が変わり、環境への適応速度にも影響します。また、プリオン維持に必要なHsp104を失わせると、酵母や病原性真菌Candida albicansの薬剤耐性獲得が遅くなりました。

病原体を直接攻撃するのではなく、「進化する能力」そのものを標的とするという考え方も含め、非常に面白い研究です。

3品目:配列ではなく金属配位構造から未知の酵素を探す

ゲノム配列やAlphaFoldによる予測構造が急速に蓄積していますが、その中から「目的の反応を行う酵素」を見つけることは依然として簡単ではありません。

今回の研究では、酵素全体の配列相同性ではなく、触媒中心における金属配位の幾何学構造を検索条件として利用しました。対象となったFe²⁺/α-ketoglutarate依存性radical halogenaseでは、通常の2His–1Asp/Glu型金属配位からAsp/Gluが失われ、halideが結合できる空き配位座が存在することが重要です。

著者らは2億を超えるタンパク質配列からcupin domainを抽出し、約53万のAlphaFold予測構造について金属結合部位を検索しました。その結果、従来知られていたradical halogenase familyに加えて、70もの未解析候補群を見いだしました。

実験的にも、アスパラギン酸を塩素化するAspXや、ビオチンを塩素化するBtnXを発見しています。 

特にBtnXは非常に広い基質特異性を持ち、その1.20 Å分解能の結晶構造から、基質のcarboxylate部分を厳密に認識する一方、残りの部分を溶媒に開いたチャネルへ収容する構造が基質多様性を生み出すことが分かりました。

「構造を予測する」時代から「構造データベースを機能探索に使う」時代へ進んでいることを感じさせる研究です。

4品目:GPCRではなくβ-arrestinそのものを薬で制御する

GPCRは非常に重要な創薬標的ですが、その下流ではGタンパク質とβ-arrestinという異なる経路が働きます。これまで受容体側を操作してシグナルを偏らせる方法は数多く研究されてきましたが、β-arrestin自体を直接制御する小分子はほとんどありませんでした。

今回、β-arrestinに直接結合してGPCRとの相互作用を阻害する小分子が同定されました。なかでもCmpd-5についてcryo-EM構造解析を行ったところ、β-arrestin1のmiddle loop、C-loop、lariat loopに囲まれたcentral crest付近のポケットへ結合することが分かりました。

Cmpd-5が結合するとβ-arrestinのドメイン配置やloop構造が変化し、GPCRへ完全に結合できない構造状態に固定されます。一方、Gタンパク質経路を直接遮断するわけではないため、β-arrestin依存的なdesensitizationやinternalizationを選択的に抑えることができます。

GPCRそのものではなく、シグナル伝達因子の構造状態を小分子で直接操作するという新しい創薬戦略につながる研究です。

5品目:腸幹細胞は「8回」の分裂を数えている

幹細胞は異なる種類の細胞を一定の比率で作り続けます。しかし、一つの幹細胞が毎回一種類の娘細胞しか作れないにもかかわらず、どうやって長期間にわたって正しい割合を保つのかは大きな疑問でした。

ショウジョウバエの腸幹細胞を追跡したところ、enteroendocrine cellを作った後、幹細胞は8回、enterocyteへ向かう娘細胞を作り、9回目の分裂で再びenteroendocrine lineageへ切り替えることが分かりました。

では、細胞は何を使って分裂回数を数えているのでしょうか。鍵となったのがヒストン修飾です。

H3K4me3とH3K36me3という活性化型修飾が分裂とともに徐々に減少し、一方でH3K27me3という抑制型修飾が蓄積します。このバランスが閾値へ達すると細胞運命が切り替わります。

実際、Trithorax群やPolycomb群、さらにヒストン残基そのものを操作すると、切り替わる分裂回数を4回、5回、11回などへ変更できました。

一時的なNotchシグナルによってこのカウンターをリセットできることも示されています。つまり、細胞はヒストン修飾の変化を「分裂回数計」として利用し、過去の分裂履歴を記憶していることになります。

6品目:細菌は「自分のDNAが壊された破片」でファージ感染を検知する

Science

ファージに感染された細菌は、さまざまな防御システムを使って感染拡大を阻止します。今回解析されたMetisというシステムは、ファージそのものを認識するのではなく、ファージによって自分自身のゲノムが分解されたことを検知するというユニークな仕組みを持っていました。

細菌ゲノム中のadenineの一部はDam methylaseによってメチル化されています。ファージが宿主DNAを分解すると、その断片としてm⁶dAMPが大量に生成します。

MetisのMisAはこのm⁶dAMPを非常に選択的に認識すると活性化し、NAD⁺をNMNとAMPへ分解します。dAMP、m⁶AMP、m⁶-deoxyadenosineなどの類似分子では活性化されないことから、宿主DNA分解の特徴的な痕跡を選択的に見ていることが分かります。

通常のDNA修復でも少量のm⁶dAMPは生じますが、MisBというphosphataseがこれを分解して誤作動を防ぎます。一方、ファージ感染時にはゲノム分解によって大量のm⁶dAMPが発生し、MisBの処理能力を超えるとMisAが作動します。

つまりMetisは、

「自分のDNA由来の特殊な分解産物が急増した=ファージにゲノムを壊されている」

と判断する警報装置です。

感染者そのものではなく、感染によって生じた“被害の痕跡”を検出する免疫システムという点がとても面白いです。

7品目:蛍光色素にぴったり合うタンパク質を一から作る

Science

蛍光タンパク質は遺伝子として細胞内へ導入できる一方、小分子蛍光色素には明るさや光安定性という大きな利点があります。今回の研究では、この二つの長所を組み合わせるため、蛍光色素そのものに結合する小型タンパク質「NovoTag」がde novo設計されました。

JF494、JF596、JF657という3種類の色素を標的に、それぞれを包み込んで選択的に結合するタンパク質構造を一から設計しています。

特にNovoTag657では、実際に決定した結晶構造が設計モデルと非常によく一致しました。apo構造ではCα RMSD 0.70 Å、色素を結合したholo構造では0.58 Åで、設計した芳香族残基や水素結合残基もほぼ狙い通りの位置に配置されていました。

さらにJF657–NovoTag657は既存のHaloTag系と比較しても高いbrightnessを示しています。

細胞内では3種類のNovoTagを利用して複数のオルガネラを同時に可視化でき、さらにsplit型NovoTagを使ってタンパク質同士の近接やdimerizationを蛍光で検出することもできます。

タンパク質構造を「予測する」だけでなく、欲しい小分子認識能を持つタンパク質そのものをゼロから作る技術が、実用的なバイオイメージングツールにまで発展してきています。

8品目:1万を超えるウイルスタンパク質から免疫回避因子を探す

Cell

ウイルス研究では、重要な病原体や代表的なモデルウイルスが詳しく調べられる一方、自然界に存在する膨大なウイルスタンパク質の多くは機能不明のままです。

今回の研究では、500種類を超えるウイルス由来の約1.2万個のviral ORFを集めたbarcoded libraryを構築し、細胞増殖、MHC class I抗原提示、interferon signalingなどへの影響を一斉に調べました。

この研究の面白いところは、大規模なライブラリーを作って終わりではなく、そこから見つかった候補について具体的な分子機構まで解析したことです。

その一つがYatapoxvirus由来の151Rです。151RはIRF9と結合し、IFN-β刺激後のISGF3形成を阻害することでinterferon応答を抑えます。AlphaFold3による予測構造と変異解析を組み合わせ、IRF9との相互作用に重要な部位まで同定されています。

また、別のウイルスタンパク質ではMHC class Iをリソソームへ送り込んで分解させる免疫回避機構も見つかっています。

個々のウイルスタンパク質を一つずつ解析する方法から、virome全体を一つの巨大な機能ライブラリーとして調べ、そこから未知の分子機構を掘り出す方向へ感染症研究が広がっていることを感じさせる研究です。

今週のまとめ

今週の論文を眺めてみると、生命がさまざまな「情報」をどのように読み取り、それを次の行動へ変えているのかという共通点が見えてきます。

MBS1は一重項酸素を感知してタンパク質凝縮体を作り、葉緑体への光そのものを減らします。プリオンはタンパク質の集合状態を世代を超えた情報として使い、突然変異率と適応速度を変化させます。

腸幹細胞では、さらに興味深い「記憶」の仕組みが見えてきました。ヒストン修飾の変化を利用して自らの分裂回数を数え、8回の自己再生分裂を終えた後に次の細胞運命へ切り替えます。

一方、細菌のMetisは、ファージそのものではなく、自分自身のゲノムが壊されたときに生じるm⁶dAMPを検出することで感染を察知します。生命は外からやって来た異物だけでなく、「自分自身に起こった異常」も情報として読み取っているようです。

そして、生命が持つこうした巧妙な仕組みを調べる私たちの方法も変化しています。

AlphaFoldによって蓄積した膨大な構造データから金属配位幾何を検索して未知酵素を発見し、β-arrestinの構造状態を小分子で選択的に固定し、さらには必要な蛍光色素に合うタンパク質をde novoで一から設計できるようになってきました。

ウイルス研究でも、個々のウイルスを調べるだけでなく、1万を超えるviral ORFをまとめて解析し、virome全体から未知の宿主操作機構を探索することが可能になっています。

生命が情報を読み取る仕組みを理解することから、その情報処理を利用し、さらには新しい分子機能を設計するところへ。

今週のCell、Nature、Scienceは、そんな現在の生命科学の広がりを感じさせるラインナップでした。

 
 
 

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