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金曜CNSカフェ:今週のおすすめメニュー RNAもタンパク質も「設計する」時代へ――翻訳制御、巨大分子装置、老化と炎症まで

8月28日
読了時間: 8分

久しぶりに研究室での開催となる今週のCNSカフェでは、AIを使って複雑なRNA構造を一から設計する研究や、GPCRを活性化・阻害するミニタンパク質のde novo設計など、「生命分子を理解する」だけでなく「目的の機能に合わせて作る」研究が目立ちました。

さらに、mRNAの翻訳効率と忠実度を高める修飾ヌクレオチド、tRNAを医薬品として利用する遺伝性疾患治療、8 MDaにも及ぶ巨大な酵素超複合体、自閉症関連変異によるタンパク質相互作用ネットワークの再編成、そして老化や炎症を制御する細胞内シグナルまで、今週も幅広い内容です。

それでは今週のおすすめ8品です。

1品目:AIで複雑なRNA pseudoknotを一から設計する

Science | Full Text DOI: 10.1126/science.aeg6829

タンパク質のde novo設計は近年急速に進歩していますが、RNAでは複雑なpseudoknotを狙った構造へ折り畳ませることは依然として難しい課題です。

今回の研究では、deep learningとRNA設計の市民科学プラットフォームEternaを組み合わせ、目的とするpseudoknot構造からRNA配列を逆算して設計しました。新たに設定した20種類の標的について、AIと熟練したEterna参加者はいずれも19種類で高い設計成功率を示し、最大240 nucleotideに及ぶ長いRNAにも対応できました。

さらに、compensatory mutationによって設計した塩基対が実際に形成されていることを検証し、cryo-EMによる三次元構造解析にも進んでいます。興味深いことに、目的としたsecondary structureは再現されている一方、実際の三次元配置には設計時に明示していなかった相互作用も含まれていました。

つまり、RNAの三次元構造予測を完全に解決しなくても、目的とするRNA構造を設計できることを示した研究です。

2品目:GPCRを活性化・阻害するミニタンパク質をde novo設計する

Nature | 日本語要約 | Full Text DOI: 10.1038/s41586-026-10656-8

GPCRは多くの医薬品の標的となる重要な膜タンパク質ですが、その立体構造は柔軟で、リガンド結合部位も複雑です。

今回の研究ではRFdiffusionなどを用いて、複数のGPCRに結合する小型タンパク質を一から設計しました。特に興味深いのは、単なるbinderではなく、受容体を活性化するagonistと、逆に阻害するantagonistの両方を設計できたことです。

MRGPRX1に対して設計されたagonistでは、cryo-EMで決定した構造が設計モデルと約0.7 ÅのCα RMSDで一致し、狙った活性型構造を高精度に再現していました。

一方、CXCR4に対して設計されたdCX1_001はorthosteric pocketへ入り込み、G protein activationやβ-arrestin recruitmentを阻害します。こちらもcryo-EM構造は設計モデルとよく一致しました。

さらにマウスでは、dCX1_001が臨床薬plerixaforと同程度に造血幹・前駆細胞をmobilizeしながら、一部の副作用を抑えられる可能性も示されています。

タンパク質の「形」だけでなく「薬理作用」まで設計する段階へ進んできたことを感じさせる研究です。

3品目:ac⁴CでmRNAをより多く、より正確に翻訳する

Nature | 日本語要約 | Full Text DOI: 10.1038/s41586-026-10729-8

mRNA医薬では、mRNAを安定化し自然免疫による認識を抑えるため、m¹Ψなどの修飾ヌクレオチドが利用されています。

今回注目されたのはN⁴-acetylcytidine、ac⁴Cです。ac⁴Cをcoding sequenceへ導入すると、RNA量が大きく増えるわけではないにもかかわらず、タンパク質産生量が増加しました。しかも、この効果は自然免疫抑制だけでは説明できず、翻訳そのものの性質が変化していることが示されました。

single-molecule imagingで調べると、現在広く使われるm¹Ψではribosomeの進行が遅くなり、ribosome collisionを感知するZNF598が多く集まります。一方ac⁴Cではこのcollisionが少なく、ribosome quality controlへの移行も抑えられていました。

さらにm¹Ψでは+1 frameshiftingが増えるのに対し、ac⁴Cではほぼbackground levelに抑えられています。

mRNA医薬の性能を考える際には、安定性や免疫回避だけでなく、ribosomeがどれだけ滑らかに、正確にmRNAを読めるかも重要な設計要素になりそうです。

4品目:tRNAそのものを医薬品にしてnonsense mutationを読み越す

Science | Full Text DOI: 10.1126/science.aeb0054

遺伝性疾患の中には、遺伝子中にpremature termination codonが生じ、本来必要なタンパク質が途中で合成停止してしまうものがあります。

今回の研究では、こうしたstop codonを読み越すsuppressor tRNAを直接細胞へ届けるという治療法が開発されました。

tRNAを化学修飾することでreadthrough効率や安定性を改善すると同時に、tRNAの肺への送達に適したlipid nanoparticleも新たに探索しています。興味深いことに、mRNAを効率よく送達するLNPとtRNAを効率よく送達するLNPの性能にはほとんど相関がありませんでした。つまり、RNAなら同じdelivery systemでよいわけではなく、cargoごとにcarrierを最適化する必要があることになります。

最適化したTTP-3 LNPは肺上皮細胞やbasal progenitor cellへtRNAを効率よく届け、嚢胞性線維症の原因となるCFTR nonsense mutationを持つ細胞でCFTRタンパク質とイオンチャネル機能を回復させました。

さらに、マウスモデルや患者由来organoidでも治療効果が確認されています。

遺伝子配列そのものを書き換えるのではなく、遺伝暗号の「読み方」を一時的に変更するというユニークなRNA治療です。

5品目:8 MDaの巨大酵素複合体がメタン生成反応を配線する

Nature | 日本語要約 | Full Text DOI: 10.1038/s41586-026-10744-9

今週の構造生物学系では、圧倒的なスケール感を持つ研究です。

メタン生成古細菌Methanococcus maripaludisから精製されたHdr–Vhu–Fwd複合体は、分子量約8 MDa、直径約50 nm。252本のpolypeptide chain、14種類のタンパク質、そして690個以上のredox cofactorから構成される巨大な分子装置でした。

cryo-EMだけでなくcryo-electron tomographyを用いて、同じdouble-ring型構造が実際に無傷の細胞質内にも存在することが確認されています。

この巨大複合体では、H₂酸化で得られた電子がbifurcating FADで二方向へ分配され、一方はheterodisulfide還元へ、もう一方はCO₂還元へ流れます。つまりメタン生成経路の重要な反応が、巨大なタンパク質複合体の中で物理的に「配線」されていることになります。

単一酵素ではなく、代謝経路そのものを一つの構造体として捉えた研究です。

6品目:自閉症関連変異はタンパク質相互作用ネットワークを書き換える

Science | Full Text DOI: 10.1126/science.ady4523

自閉症スペクトラム症には非常に多くの遺伝子が関係しており、それぞれの変異がどのように共通する病態へつながるのかは大きな課題です。

今回の研究では、自閉症リスクタンパク質約100種類についてprotein–protein interaction networkを大規模に解析し、さらに患者由来の54種類の変異がそのnetworkをどのように変化させるのかを調べました。

重要なのは、疾患変異が単純にタンパク質機能を失わせるだけではなく、特定の相互作用を失わせたり、逆に新たな相互作用を強めたりすることです。

AlphaFoldによる複合体構造予測を組み合わせることで、変異がinteraction interfaceへ直接影響する例も明らかになりました。例えばFOXP1の複数の変異は異なる構造位置に存在しながら、いずれもFOXP1–FOXP4 interactionを弱めます。

さらにFOXP1変異を導入したforebrain organoidではdeep-layer cortical neurogenesisに異常が生じますが、FOXP4をさらに欠損させることで一部の表現型がrescueされました。

多様な疾患変異を、個々の遺伝子ではなく相互作用ネットワーク上の共通した「再配線」として理解する研究です。

7品目:ミトコンドリア代謝がクロマチンを介して老化炎症を作る

Nature | 日本語要約 | Full TextDOI: 10.1038/s41586-026-10791-2

細胞老化に伴って、老化細胞はIL-6やIL-8などさまざまな炎症性因子を分泌するSASP(senescence-associated secretory phenotype)を示します。

今回の研究では、SASPがミトコンドリア代謝とepigenetic regulationの連携によって形成されることが示されました。

ミトコンドリアを除去するとSASP遺伝子領域のH3K27acが低下し、炎症性遺伝子発現も減少します。一方、acetateを与えてacetyl-CoA供給を回復させると、histone acetylationとSASP発現の一部が戻りました。

鍵となるのが、ミトコンドリアからcitrateを細胞質へ輸送するSLC25A1です。この輸送体をCTPI2で阻害するとSASPは大きく低下しますが、p16やp21によるcell-cycle arrestは維持されます。つまり、細胞老化そのものを解除せず、炎症性outputだけを切り離すことができるわけです。

さらに高齢マウスへCTPI2を投与すると、frailtyや筋機能が改善し、SASPも低下しました。

老化細胞を除去するのではなく、老化細胞から出る有害な炎症シグナルだけを抑えるという新しい抗老化戦略につながりそうです。

8品目:炎症性腸疾患ではnecroptosisからapoptosisへの細胞死シグナルが再燃を予測する

Science | Full Text DOI: 10.1126/science.aeh7112

炎症性腸疾患では腸上皮細胞の障害が大きな問題ですが、その細胞死がどのような順序で進むのかは十分に分かっていませんでした。

今回の研究では、多数の患者生検と患者由来intestinal organoidを組み合わせ、necroptosisとapoptosisが独立した経路ではなく、時間的につながったcell-death axisとして働くことを示しています。

患者組織では、necroptosisの指標であるpRIPK3が見かけ上まだ炎症の少ない領域から上昇しており、一方cleaved caspase-3によるapoptosisはより炎症の進んだ領域で増加していました。

organoidではIFNγとTNFを組み合わせることで患者組織に似た細胞状態が誘導され、最終的にはBAX/BAKを介するmitochondrial apoptosisへ進みます。

さらに患者を最長3年間追跡すると、その後再燃した患者ではbaselineの時点ですでにpRIPK3が高い傾向を示しました。一方、一般的な炎症マーカーであるCRPでは明瞭な差がありませんでした。

つまりcell-death signalingは単なる炎症の結果ではなく、将来の疾患再燃に先行する病態そのものである可能性があります。

今週のまとめ

今週のNature誌とScience誌を通して強く感じたのは、生命科学が「観察する・理解する」段階から、分子や情報処理そのものを設計・操作する段階へ急速に進んでいることです。

RNA pseudoknotは、目的構造から配列を逆算して設計できるようになり、GPCRではagonistとantagonistという薬理作用を持つタンパク質を一から作ることが可能になりました。

RNA医薬でも、ac⁴Cを利用してribosomeをより正確に進ませたり、suppressor tRNAを直接届けてpremature stop codonを読み替えたりと、翻訳という生命の基本プロセスそのものを細かく制御する研究が進んでいます。

一方、生命が本来持つシステムを見てみると、メタン生成古細菌では8 MDaもの巨大複合体が数百のredox centerをつないで電子を流し、自閉症では多様な遺伝子変異がprotein interaction networkの共通した変化へ収束します。

さらに細胞レベルでは、ミトコンドリア代謝がhistone acetylationを介して老化炎症を制御し、腸上皮では複数の細胞死経路が連携して慢性炎症や再燃へつながっています。

RNAからタンパク質、巨大複合体、細胞、そして疾患まで。分子の構造と情報の流れを理解し、それを意図的に設計・制御する。

今週のNature、Scienceは、そんな現在の生命科学の方向性がよく表れたラインナップでした。

 
 
 

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