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金曜CNSカフェ:今週のおすすめメニュー RNA、AI、膜輸送、オルガネラ修復から精密がん治療まで

  • 8月7日
  • 読了時間: 10分

今週も、Cell、Nature、Science誌から気になった論文を取り上げ、金曜CNSカフェを開催しました。

今回は、RNAとタンパク質を鋳型とする細菌の抗ファージ免疫、タンパク質間相互作用を読み解く言語モデル、膜間脂質輸送、リソソーム膜修復、変異RNAを利用したがん細胞の選択的除去、細胞の基盤モデル、AIによるファージゲノム設計、ミトコンドリア輸送の方向転換を紹介しました。

今週の論文に共通するのは、細胞や生物が持つ複雑な情報を読み取り、それを防御、輸送、修復、治療、設計へ変換する仕組みです。

それでは、今週のおすすめ8品です。

1品目:RNAとタンパク質を鋳型にして抗ウイルスDNAを作る

Coordinated RNA- and protein-templated synthesis of double-stranded DNA by a dual reverse transcriptase immune system(Cell)

細菌のreverse transcriptaseは、単にRNAからDNAを作るだけではなく、抗ファージ防御にも利用されています。この研究では、DRT3と呼ばれる防御系が、2種類のreverse transcriptaseを協調させて抗ウイルス性の二本鎖DNAを合成する仕組みが明らかになりました。

DRT3aは非コードRNA中の反復配列を鋳型として、poly-(dTdG)鎖を合成します。一方のDRT3bは、核酸を鋳型とせず、酵素自身のアミノ酸残基を利用して相補的なpoly-(dCdA)鎖を合成します。両者の産物が対合することで、自己相補的な二本鎖DNAが形成されます。

特に驚かされるのは、DRT3bが活性部位近傍のGlu22とArg241を利用し、dCとdAを交互に取り込む点です。通常、DNA polymeraseが塩基を選択する際にはDNAやRNAの塩基が鋳型になりますが、この場合はタンパク質のアミノ酸側鎖が塩基選択を規定しています。

平常時には、宿主のRecBCD複合体がこれらのDNA産物を分解します。しかし、λファージ由来のGamタンパク質がRecBCDを阻害すると、DRT3由来DNAが蓄積し、感染細胞を停止または死滅させるabortive infectionが起こります。

ファージが宿主防御を妨害しようとする行為そのものが、別の防御系を起動する信号になるという巧妙な仕組みです。

2品目:単量体の配列からタンパク質複合体を読み解く

Expanding the scope of protein language modeling to protein-protein interactions with MSA Pairformer(Cell)

タンパク質言語モデルは、膨大なアミノ酸配列を学習することで、構造、機能、変異の影響を予測します。しかし、個々のタンパク質ではなく、タンパク質同士がどのように相互作用するかを予測することは、依然として難しい課題です。

この研究で開発されたMSA Pairformerは、複数配列アラインメント中の配列情報と残基対情報を双方向に更新することで、タンパク質間の共進化を捉えます。興味深いことに、モデルは単一ポリペプチド鎖のみを用いて学習されているにもかかわらず、タンパク質複合体の界面接触を高精度に予測しました。

さらに、同じタンパク質ファミリーの中に複数のオリゴマー形成様式が存在する場合でも、目的配列に進化的に近い配列へ重みを付けるquery-biased attentionによって、サブファミリー特異的な界面情報を抽出できます。

例えばOmpR型タンパク質では、全配列を均等に扱う方法では19個の界面接触のうち1個しか回収できませんでしたが、query biasを用いることで8個を回収できました。

タンパク質の配列には、単量体の構造情報だけでなく、どの分子と、どの面で、どのように会合してきたかという進化の履歴も埋め込まれていることを示す研究です。

3品目:脂質を運ぶ橋と、膜の両側へ配るスクランブラーゼ

Mechanism of lipid transfer by bridge-like protein VPS13A and the scramblase XK(Cell)

細胞内の膜脂質は主に小胞体で合成され、他のオルガネラへ運ばれます。その輸送には小胞輸送だけでなく、二つの膜を直接つなぐbridge-like lipid-transfer proteinも利用されます。

VPS13Aは、内部に長い疎水性の溝を持ち、膜接触部位で脂質をまとめて輸送する巨大タンパク質です。本研究では、VPS13AとスクランブラーゼXKの複合体構造がcryo-EMで解析され、分子動力学計算と組み合わせて脂質移動の仕組みが調べられました。

VPS13AのPHドメインはXKへ結合し、ATG2_Cモチーフは膜へ挿入します。この二点固定によって、VPS13Aの脂質輸送路の出口が受容膜の直近へ配置されます。

シミュレーションでは、VPS13A内部の脂質量が少ない場合、脂質は出口付近まで移動しても膜へ渡りませんでした。しかし、輸送路内部の脂質量を増やすと末端部が開き、複数の脂質がまとまって膜へ移動しました。最大で27分子の脂質が移動する様子も観察されています。

VPS13Aが細胞質側のリーフレットへ脂質を供給すると、XKがそれらを反対側のリーフレットへ移動させます。これによって片側だけが膨らむことなく、膜全体を均等に成長させることができます。

脂質を運ぶ橋と、膜内で脂質を配るスクランブラーゼが協調する仕組みです。

4品目:損傷したリソソームへ修復装置を呼び込むLASER

リソソームは、分解酵素や酸性内容物を内部に保持するオルガネラです。その膜が損傷すると、内容物が細胞質へ漏れ、細胞死や炎症、神経変性につながる可能性があります。

細胞はESCRT複合体を損傷部位へ集めて膜を修復しますが、ESCRTがどのように損傷リソソームを認識するかは十分に分かっていませんでした。

この研究では、CRISPRiスクリーニングから、LC3/GABARAP-assisted stimulator for ESCRT recruitment、略してLASERと呼ばれる複合体が同定されました。LASERの中心となるTFGは、通常は小胞体出口部位に局在していますが、リソソーム膜が損傷するとLC3やGABARAPを介して損傷部位へ移動します。

損傷膜ではATG8ファミリータンパク質が膜脂質へ結合し、TFGはLIRモチーフを用いてATG8へ結合します。さらにTFGのPSAPモチーフがESCRT-I構成因子TSG101へ結合し、ESCRT-I、II、IIIの順次集合を促進します。

つまりTFGは、片側で損傷膜を認識し、もう片側で修復装置を呼び込む分子アダプターとして働きます。

遺伝性痙性対麻痺に関連するTFG R106C変異では、TFGのオリゴマー化が低下し、TSG101結合、ESCRT動員、リソソーム膜修復が障害されました。患者由来細胞でも同様の異常が確認されています。

リソソーム修復機構の異常が、神経変性疾患の分子基盤につながる可能性を示す研究です。

5品目:変異RNAを検知したがん細胞のクロマチンを破砕する

Targeting cancer-specific mutations with RNA-triggered chromatin shredding(Nature)

がんではTP53をはじめとする多くの遺伝子に変異が生じます。しかし、変異タンパク質に薬剤が結合できる明確なポケットがない場合、直接標的とすることは困難です。

この研究では、がん特異的な変異タンパク質を狙う代わりに、変異を含むmRNAをがん細胞の識別信号として利用しました。

使用されたCas12a2は、標的RNAを認識すると活性化し、標的配列とは無関係に周囲のRNAやDNAを切断するtrans-cleavage活性を持ちます。細菌では、この活性によって感染細胞内の核酸を破壊し、ファージ増殖を阻止します。

研究者らは、TP53のR248QやR280Kなどの変異RNAを識別するgRNAを設計しました。Cas12a2が変異RNAを認識すると、細胞内クロマチンが広範囲に断片化され、DNA損傷応答と細胞死が誘導されます。一方、野生型TP53を発現する細胞では活性化が抑えられました。

さらに、Cas12a2 mRNAとgRNAを脂質ナノ粒子に封入し、マウス腫瘍モデルへ投与したところ、MYCやTP53 R248Qを標的とした条件で腫瘍量が減少しました。

この方法は遺伝子を修復するのではなく、変異RNAを持つ細胞だけを自己破壊させる戦略です。細菌のabortive infectionを精密がん治療へ転用した研究といえます。

6品目:あらゆる細胞を一つの地図へ配置する

Universal cell embedding provides a foundation model for cell biology(Nature)

single-cell RNA sequencingの普及によって、多様な組織、生物種、疾患から数千万個の細胞データが得られるようになりました。しかし、実験条件や生物種が異なるデータを一つに統合することは容易ではありません。

この研究では、Universal Cell Embedding、UCEと呼ばれる細胞生物学の基盤モデルが開発されました。UCEは36百万個の細胞、1,000を超える細胞タイプ、8生物種のデータを共通の潜在空間へ埋め込みます。

UCEでは、一つの細胞を発現しているRNAの集合として扱います。各遺伝子を、対応するタンパク質配列の言語モデル表現へ変換し、その情報から細胞全体の埋め込みを作ります。

遺伝子名や生物種固有のラベルではなく、タンパク質配列を共通言語として使うため、学習時に含まれていない生物種や新しいデータセットについても、再学習やfine-tuningなしで共通空間へ配置できます。

その空間では、同じ細胞系譜に属する細胞や、似た生物学的機能を持つ細胞が近くに配置されます。また、モデルが明示的に学習していない発生系譜や未知の細胞状態も、自発的に現れました。

single-cell解析を、個別の実験ごとのクラスタリングから、あらゆる細胞を共通の地図上で比較する段階へ進める研究です。

7品目:AIが完全なファージゲノムを設計する

Generative design of bacteriophages with genome language models(Science)

これまでAIによる生命設計の多くは、個別のタンパク質や遺伝子回路を対象としてきました。しかし、完全なゲノムには複数の遺伝子、調節配列、複製起点、パッケージングシグナルなどが含まれ、それらが正しく協調しなければ機能しません。

この研究では、ゲノム言語モデルEvo 1とEvo 2を用いて、ΦX174を参考にした完全なバクテリオファージゲノムが生成されました。

研究者らは数千種類のゲノム候補を生成し、遺伝子構成や調節配列、宿主特異性などを計算的に評価しました。その中から約300種類を実際に合成し、宿主細胞で試験した結果、16種類が感染可能なファージとして機能しました。

生成ファージは天然のΦX174と異なる配列、遺伝子構成、ゲノム長を持ちながら、E. coli Cへの宿主特異性を維持していました。ある生成ファージでは、進化的に遠いファージ由来のDNA packaging proteinがカプシド形成に利用されていることも、cryo-EMによって確認されました。

さらに、ΦX174に耐性化した大腸菌に対し、天然ファージの混合物では十分な抑制ができなかった一方、AI生成ファージの混合物は耐性菌集団を速やかに抑制しました。

生成AIが、単にDNA配列らしい文字列を作るのではなく、感染、複製、粒子形成まで可能なゲノム全体の制約をある程度学習していることを示します。

その一方で、機能性ウイルスゲノムをAIで設計できることは、バイオセーフティーやデュアルユースの観点からも慎重な議論を必要とします。

8品目:リン酸化でミトコンドリアの進行方向を切り替える

A molecular switch for coordinating kinesin and dynein transport of mitochondrial cargo(Science)

ミトコンドリアは、細胞内のエネルギー需要や損傷状態に応じて移動します。微小管上では、キネシンが細胞周辺方向へ、ダイニンが細胞中心方向へ輸送します。

しかし、逆方向へ動く二つのモーターが、同じミトコンドリア上でどのように協調しているかは分かっていませんでした。

この研究では、自己集合するナノケージへミトコンドリア受容体Miro1の細胞質領域を付加し、TRAKとモーターによる輸送だけを観察できる人工カーゴ系が作られました。

TRAK1を結合させたカーゴは主に細胞周辺へ移動しましたが、TRAK2を結合させたカーゴは核周辺へ集まりました。両者は非常によく似たタンパク質ですが、短い制御ヘリックスの配列差がモーター選択性を決めていました。

AlphaFold2による構造予測と変異解析から、TRAK内の制御ヘリックスを交換すると輸送方向も反転することが示されました。

さらに、ストレス活性化キナーゼによってこのヘリックスがリン酸化されると、キネシンが解離し、ダイニン依存的輸送が活性化されます。その結果、ミトコンドリアは細胞周辺から核周辺へ移動します。

損傷ミトコンドリアを細胞中心部へ戻し、分解や品質管理へ導くための分子スイッチと考えられます。

キネシンとダイニンが綱引きをしているのではなく、一つのアダプターのリン酸化によって進行方向が切り替えられる仕組みです。

今週のまとめ

今週の論文では、生命が持つ情報を読み取り、それを具体的な機能へ変換する多様な仕組みが示されました。

細菌のDRT3系では、RNAとタンパク質という異なる鋳型から二本鎖DNAが作られ、抗ファージ防御へつながります。MSA Pairformerは、単量体配列に残された進化情報からタンパク質複合体の界面を読み解きます。

VPS13AとXKは、脂質を膜へ運び、二重層の両側へ再分配することで膜成長を支えます。LASERは、損傷リソソーム上のATG8を読み取り、ESCRT修復装置を集めます。

Cas12a2は、がん特異的RNAを細胞識別信号として利用し、その細胞のクロマチンを破砕します。UCEは、異なる生物種や組織から得られた細胞を一つの共通空間へ配置します。

Science誌の二つの研究では、AIが完全なファージゲノムを設計し、TRAKの短い制御ヘリックスがミトコンドリア輸送の方向を切り替えることが示されました。

今週の研究からは、RNA、タンパク質配列、膜損傷、遺伝子発現、リン酸化といった情報が、単なる状態の指標ではなく、細胞や生物の行動を決める入力として利用されていることが分かります。

今週も、分子機構、構造生物学、細胞生物学、AI、合成生物学、精密医療まで、生命科学の広がりを感じる内容となりました。

 
 
 

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