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金曜CNSカフェ:今週のおすすめメニュー AIでタンパク質の進化を広げる――ウイルスの膜突破、遺伝子の「核内住所」、生きた糖尿病治療まで

6 日前
読了時間: 11分

今週はCell誌がお休みのため、Nature誌とScience誌から注目した8報を紹介します。


今週の論文を眺めていると、生命科学で「操作できるもの」の範囲がますます広がっていることを感じます。AIを使ってタンパク質を完成させるのではなく、より進化しやすい出発点を作る。細胞の中で大量に存在するrRNAを増やすことで、幹細胞の性質そのものを変える。さらには、遺伝子が核の「どこに置かれているか」を動かすことが、遺伝子発現を制御する重要な要素であることも分かってきました。

一方で、rotavirusがどのように宿主細胞の膜を突破するのか、糖脂質合成の入口を担う膜酵素がどのように働くのかという、構造生物学らしい研究も充実しています。

後半では、免疫チェックポイントPD-1の意外な作用機構、血糖上昇を感知して治療因子を作る「生きた薬」、そして小児期の抗がん剤治療が正常細胞のゲノムにどのような痕跡を残すのかという研究まで取り上げます。

それでは、今週のおすすめ8品です。

1品目:AIで「進化しやすいタンパク質」を作る

AI-redesigned starting points and outcomes enhance protein evolution

DOI: 10.1038/s41586-026-10820-0

AIによるタンパク質設計というと、目的の機能を持つタンパク質をコンピューター上で一気に作ることを想像しがちです。今回の研究は少し違います。

研究チームはProteinMPNNを使ってbotulinum neurotoxin由来proteaseを再設計し、まず安定で変異に耐えやすいタンパク質を作りました。その後、phage-assisted continuous evolution(PACE)によるdirected evolutionを行っています。

すると、天然型proteaseから進化させた場合よりも、AIで再設計したproteaseを出発点にした方が、より高い活性を持つ変異体へ到達できました。難しい新規substrateへの適応では、天然型では進化に失敗した系列があったのに対し、再設計型ではすべての系列が進化に成功しています。

面白いのはその理由です。タンパク質が新しい機能を獲得するためのmutationは、しばしば構造を不安定にします。天然型タンパク質では耐えられないmutationでも、あらかじめ安定化されたタンパク質なら受け入れられる。つまりAIによる再設計が、進化で利用できる「余裕」を作ったわけです。

さらに研究チームは、もともとSNAP25を切断するproteaseを、神経変性疾患との関連が注目されるataxin-2を選択的に切断するproteaseへ進化させました。AI再設計型から進化したproteaseでは、天然型を出発点にしたものよりataxin-2への選択性が79倍以上高くなっています。

AIが進化に取って代わるのではなく、AIで「より進化しやすい出発点」を作り、自然選択の力と組み合わせる。

タンパク質工学の今後を考えるうえで、とても興味深い研究です。

Mechanism of membrane perforation in rotavirus cell entry

Science Full Text

DOI: 10.1126/science.aeg4851

ウイルスが増殖するためには、まず宿主細胞の中へ入らなければなりません。

エンベロープを持つウイルスの多くは、自身の膜と宿主膜を融合させることで細胞へ侵入します。しかしrotavirusは膜を持たないnon-enveloped virusです。では、大きなvirus particleを包むcapsidは、どうやって細胞膜を突破するのでしょうか。

今回の研究ではcryo-electron tomography(cryo-ET)を用いて、rotavirusが細胞へ付着してから内部のdouble-layer particle(DLP)が細胞質へ放出されるまでを、実際の細胞内で捉えました。

まず表面タンパク質VP5*が大きく構造変化し、宿主膜へ入り込みます。それによって膜がvirus particleを包み込むように変形し、同時にCa²⁺が透過できるようになります。

取り込まれた小胞内部でCa²⁺濃度が低下すると、別の外殻タンパク質VP7がtrimerからmonomerへ解離します。そして驚くことに、この解離したVP7自身が膜に穴を開ける因子になります。

精製したVP7 monomerを人工liposomeへ加えるだけでも膜に大きなporeが形成され、さらにVP7中のわずか21残基ほどのamphipathic helixだけでも同様の穿孔が起こりました。

つまりrotavirusは、

膜へ入り込むVP5 → Ca²⁺低下 → VP7解離 → VP7による膜穿孔*

という連続したcapsid proteinの構造変化を使って、自ら宿主膜を突破していました。

Primate-specific regulation of the human glycosphingolipid gatekeeper UGCG

DOI: 10.1038/s41586-026-10927-4

私たちの細胞膜には、数百種類ものglycosphingolipidが存在します。その合成の入口を担っているのが**UGCG(UDP-glucose ceramide glucosyltransferase)**です。

UGCGは、細胞質に存在する水溶性のUDP-glucoseからglucoseを取り出し、細胞膜の中に埋まっているceramideへ付加します。

ここには不思議な問題があります。

水の中にあるsubstrateと、脂質膜の中にあるsubstrateを、酵素はどうやって同じactive siteへ集めるのでしょうか。

今回、ヒトUGCGについて8種類ものcryo-EM構造が決定されました。UGCGは3本のtransmembrane helixで膜に固定され、その上に糖転移反応を行うGT-A catalytic domainが配置された特徴的な構造を取っています。

構造から見えてきた答えは非常に合理的でした。

UDP-glucoseは細胞質側からactive siteへ入ります。一方、ceramideは膜から外へ出ることなく、膜に開いたhydrophobic tunnelを通って横方向から(lateral entry)active siteへ入ります。

そして両者は、ちょうど膜と細胞質の境界に位置するreaction centreで出会います。

さらに興味深いのが、ceramide tunnelの入口にあるTyr196です。

多くの非霊長類哺乳類ではこの位置はSerですが、霊長類ではTyrへ変化しています。大きなTyr側鎖はceramideの入口を部分的に塞ぐgateとして働き、このTyrを祖先型のSerへ戻すと酵素活性が上昇しました。

つまり進化の過程で、糖脂質合成の入口に霊長類特有の「調節弁」が追加されたようです。

Manipulation of protein translation and stem cell self-renewal by CRISPR activation of rRNA transcription

Science Full Text

DOI: 10.1126/science.aeh1348

細胞が盛んに増殖するときには、多くのribosomeが必要になります。そのため、増殖している細胞ではribosomal RNA(rRNA)も増えています。

では、

rRNAが増えるのは細胞が増殖した結果なのでしょうか。それともrRNAを増やすこと自体が細胞を増殖させるのでしょうか。

これまで、この因果関係を直接調べるのは容易ではありませんでした。

今回開発されたのがTAPIR(Targeted Activation of Protein Translation)です。dCas9を使ったCRISPR activationによって47S rDNAの転写を直接増加させる方法です。TAPIRを使うと、18Sや28Sなどの成熟rRNAが増え、nucleolusも拡大しました。

その結果、細胞全体のタンパク質合成量が増加しました。新しく作られるタンパク質は35~60%程度増え、proteomicsでは検出された4,000種類以上のタンパク質の大部分が増加しています。

さらにneural stem cellでは、rRNAを増やすだけでcell cycleが促進され、stem-cell markerを保つ細胞が増えました。

この効果は培養皿の中だけではありません。発生中のマウス胎児脳へTAPIRを導入すると、実際に神経前駆細胞の増殖が増加しました。

これまでribosome biogenesisは、細胞増殖を支える「housekeeping system」と見られがちでした。

今回の結果は、細胞がどれだけタンパク質を作れるかというcapacityそのものが、細胞の運命を決めるシグナルになり得ることを示しています。

Subnuclear genome compartmentalization controls bivalent chromatin activity

DOI: 10.1038/s41586-026-10832-w

遺伝子がONになるかOFFになるかを考えるとき、DNA methylationやhistone modificationなどのepigenetic regulationを思い浮かべます。

今回の研究は、それだけでは不十分であることを示しています。

重要なのは、その遺伝子が細胞核の「どこに置かれているか」でした。

研究チームは発生途中のヒト大脳皮質を解析し、神経細胞が分化する際のgenomeの位置変化を調べました。

神経前駆細胞では、将来神経細胞で働く多くの遺伝子が核の外周にあるnuclear lamina付近に置かれています。ところが神経細胞への分化に伴って、SATB2やMEF2Cなどの遺伝子が核内部のnuclear speckle近傍へ移動します。

特に興味深いのが、活性化markerのH3K4me3と抑制markerのH3K27me3を同時に持つbivalent geneです。

laminaからspeckleへ移動したbivalent geneの85%が活性型のH3K4me3-only状態へ移行し、平均して発現量が8倍以上増加しました。

さらに著者らはDNA reporterを人工的にnuclear laminaへ固定する実験を行いました。するとgene expressionは強く抑えられます。

驚くことに、H3K27me3を薬剤で除去しても、laminaへ固定されたDNAは低発現のままでした。

つまり、

「抑制性histone markを持っているからOFFなのではなく、核の端に置かれていること自体がOFFにする」

という側面があることになります。

遺伝子には配列だけでなく、核内の住所もあるようです。

Unphosphorylated tyrosines mediate PD-1 inhibition of T cell signaling condensate formation

Science Full Text

DOI: 10.1126/science.adt9365

がん免疫療法でよく知られているPD-1は、T細胞の働きにブレーキをかけるimmune checkpoint receptorです。

これまでは、PD-1の細胞内領域にあるtyrosineがphosphorylationされ、そこへSHP1/SHP2などのphosphataseが呼び込まれることでT-cell signallingを抑える、というモデルが中心でした。

今回の研究は、それとは異なる仕組みを提案しています。

T細胞が活性化すると、膜直下ではLAT、GRB2、SOS1など多数のsignalling proteinが集合し、biomolecular condensateと呼ばれる高密度の分子集合体を形成します。

ところがPD-1が存在すると、このLAT condensateの形成が抑えられました。

しかも意外なことに、この作用を示したのはphosphorylationされていないPD-1です。PD-1をphosphorylationすると、むしろこのcondensate抑制作用は失われました。

さらにPD-1のtyrosineをphenylalanineへ置換すると作用は消えますが、tryptophanへ置換すると作用は残ります。

つまり重要なのは「tyrosineがphosphorylationされること」ではなく、tyrosineやtryptophanが持つ芳香族性と水素結合形成能力である可能性があります。また周囲の酸性アミノ酸配列も必要でした。

PD-1の細胞内領域を単なるphosphorylation siteの集まりではなく、intrinsically disordered region(IDR)の物理化学的な“sequence grammar”として捉えた研究です。

従来のPD-1 signallingを否定するのではなく、T細胞を抑制する仕組みに「signalling condensateを作らせない」という別の層が加わったことになります。

Glucose-responsive probiotics for glycaemic modulation in mice and monkeys

DOI: 10.1038/s41586-026-10909-6

薬は通常、決められた時間と量で投与します。

しかし本当に理想的なのは、体の状態を自動的に感知して、必要なときだけ必要な量の薬を作るシステムかもしれません。

今回研究チームが作ったのは、glucoseを感知して治療用タンパク質を作るように遺伝子回路を組み込んだprobiotic bacteriumです。

このシステムはGIFTと名付けられています。

細菌にはHexRというglucose代謝に応答するtranscriptional regulatorがあり、この仕組みをsynthetic gene circuitへ組み込みました。glucoseが高い条件になると遺伝子発現がONになり、糖尿病治療に使われるホルモンGLP-1を作ります。

つまり、

glucose sensor → gene switch → GLP-1 production

を一つの細菌の中へ組み込んだわけです。

経口投与された細菌は腸管に一時的に存在し、glucoseに応答して治療因子を放出します。

糖尿病モデルマウスでは血糖値、体重、脂質代謝などが改善しました。そしてさらに、自然発症type 2 diabetesのカニクイザルでも検証されています。

1回の経口投与後にGLP-1とinsulinが増加し、血糖低下は最大3日程度持続しました。3日おきに5週間投与すると、空腹時血糖、glucose tolerance、insulin resistanceにも改善が認められました。

もちろん、現段階ではマウスとnon-human primateでの研究であり、ヒトで使用できる治療法になったわけではありません。

それでも、薬を飲むのではなく、

「体内環境を読み取り、自分で投与量を調節する細胞を飲む」

という未来の治療をイメージさせる研究です。

Science Full Text

DOI: 10.1126/science.ady0339

抗がん剤はがん細胞を殺すことで多くの命を救っています。

一方、cisplatinやcarboplatinなどのplatinum製剤はDNAを傷つけることで作用するため、治療を生き延びた正常細胞にもmutationが残る可能性があります。

特に小児がんでは、治療後に何十年という人生が続きます。そのため、正常組織に残ったゲノム変化が将来どのような影響を与えるのかは重要な問題です。

今回研究チームはNanoSeqという非常に高精度なduplex sequencing法を使い、小児の正常肝臓、血液、腎臓などに存在するsomatic mutationを解析しました。この方法では、単一DNA分子レベルのmutationを極めて低いerror rateで検出できます。

その結果、platinum製剤を受けた小児の正常組織ではmutationが広範囲に増加し、正常肝では平均約2,200のsingle-base substitutionが認められました。これは小児組織でありながら、成人の正常組織でみられる水準に相当します。

さらに肝臓では、既知のplatinum-induced mutational signatureとは異なる、新しいSBSAというsignatureが発見されました。

同じ薬剤が全身に投与されても、mutationの残り方には組織特異性があるわけです。

また、正常組織中にはprotein sequenceを変えるnonsynonymous mutationも多数認められ、その中には、がんであればdriver mutationと分類されるようなvariantも含まれていました。

ただし重要なのは、正常細胞で見つかったこれらのvariantが、実際にがんや疾患を引き起こすことをこの研究が証明したわけではないことです。

著者らも、これらはpotential functional impactを持つ可能性があるvariantとして慎重に位置づけています。

抗がん剤の利益を否定する研究ではなく、治療後の長い人生を考えるために、

「治療によって正常組織のゲノムに何が残るのか」

を定量的に明らかにした研究と捉えるのがよいでしょう。

今週のまとめ

今週のNature誌とScience誌では、一見するとかなり異なる分野の研究が並んでいます。

しかし8報を通して見ると、共通するテーマが見えてきます。

AI protein evolutionでは、タンパク質の進化可能性そのものを操作しました。TAPIRではrRNA量を変えることで細胞の翻訳能力を操作し、neural stem cellの性質まで動かしています。

核内genome研究では、gene sequenceでもhistone modificationでもなく、遺伝子の空間的位置が転写を制御することが示されました。PD-1研究では、signalling moleculeの量だけでなく、タンパク質がどのように集まるかが免疫応答を左右していました。

一方、rotavirusとUGCGの研究からは、膜という二次元環境の中でタンパク質の構造変化やsubstrateの移動がどれほど巧妙に利用されているのかが分かります。

そしてGIFTでは、生物が本来持つglucose sensingを人工的な治療回路へ変換しました。

その一方でplatinum chemotherapyの研究は、生命システムを操作することには長期的な影響もあり、その痕跡を正確に測定することも生命科学の重要な役割であることを思い出させてくれます。

タンパク質の配列、膜の構造、ribosomeの量、遺伝子の場所、分子の集合状態、そして細菌の遺伝子回路。

今週の論文は、生命現象を制御する「つまみ」が、私たちが考えていた以上に多様であることを示しているように感じました。

 
 
 

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Tokyo University of Science

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