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金曜CNSカフェ:今週のおすすめメニュー AIが仮説を考え、RNAが治療を導き、光合成装置が哺乳類細胞で働くWntシグナルソーム、KRAS凝縮体、分子接着剤、神経免疫まで

  • 2 日前
  • 読了時間: 6分

今週も、Cell誌、Nature誌、Science誌から気になった論文を持ち寄り、金曜CNSカフェを開催しました。

今回は、科学的仮説を提案するAI、Wnt受容体複合体の構造、KRASの相分離、グリコーゲンのユビキチン化、分子接着剤による標的タンパク質分解、ADARを利用したRNA編集、哺乳類細胞への光合成反応の移植、そして抗体と補体によるシナプス除去を取り上げました。

一見すると異なる研究ですが、共通するのは、生命科学の研究対象だけでなく、研究手法そのものも大きく変化している点です。

それでは、今週のおすすめ8品です。

Co-Scientistは、複数のAIエージェントが仮説の生成、批判、順位付け、改良を繰り返し、研究者へ新しい研究仮説を提案するシステムです。急性骨髄性白血病を対象とした薬剤再目的化では、AIが提案した候補が実験的に検証されました。

もう一つのシステムRobinは、文献探索、仮説生成、実験提案、データ解析、次の仮説生成までを一つの循環として進めます。乾燥型加齢黄斑変性を対象に、候補薬の提案からRNA-seq解析による作用機序の検討までを実行しました。

AIは、文章を整える道具から、研究課題を整理し、実験結果を読み、次の研究を提案する存在へ近づいています。一方で、仮説の妥当性や再現性を保証するのは、今後も研究者の役割です。

2品目:Wnt3a二量体がシグナルソームを組み立てる

Wntシグナルは、発生、幹細胞維持、再生、がんなどに関わる重要な細胞内情報伝達系です。しかし、WntがFrizzledとLRPをどのように集合させ、シグナルを開始するのかは十分に分かっていませんでした。

今回、Wnt3a、Frizzled 8、LRP6からなる細胞外複合体がクライオ電子顕微鏡で解析されました。中心にはWnt3a二量体が存在し、2分子のWnt3a、4分子のFrizzled、2分子のLRP6からなる2:4:2複合体を形成していました。

Wnt3aは単純に1組の受容体を橋渡しするのではなく、複数の受容体を集合させる足場として働きます。受容体クラスター形成が、細胞内側でのDvlやAxinの集合につながり、Wntシグナルソームを形成すると考えられます。

3品目:ファルネシル化KRASが凝縮体を作る

KRASは細胞増殖を制御する低分子量Gタンパク質で、多くのがんで活性化変異が見られます。KRASはC末端のファルネシル化によって膜へ移行すると考えられてきました。

今回、ファルネシル化されたKRASが細胞質で液–液相分離し、凝縮体を形成することが示されました。KRAS凝縮体はER膜上のRCE1を集積させ、KRASの成熟、細胞膜移行、下流シグナルを促進します。

さらに、スタチンによってファルネシル化を抑えるとKRAS凝縮体が減少し、大腸がん増殖が抑制されました。脂質修飾は膜局在の目印であるだけでなく、相分離を駆動する役割も持つようです。

ユビキチン化は、一般にタンパク質の分解や機能制御に関わる修飾として知られています。しかし、ユビキチンは糖や脂質などの非タンパク質分子にも結合する可能性があります。

今回、新たに開発されたNoPro-clipping法によって、グリコーゲン、グリセロール、スペルミンなどの内在性ユビキチン化が検出されました。

肝臓では、絶食によるグリコーゲン減少に伴って、残存グリコーゲンのユビキチン化が増加しました。ユビキチン化されたグリコーゲンはリソソームへ運ばれることから、ユビキチン系が糖代謝を直接制御する可能性があります。

5品目:分子接着剤が新しい分解標的を作る

Degron-independent recruitment of KAT2A expands the target space of CRBN molecular glues(Science)

分子接着剤は、標的タンパク質とE3ユビキチンリガーゼを近づけ、標的を分解へ導く小分子です。従来のCRBN分子接着剤は、標的側の特定degronを認識すると考えられていました。

今回開発された分子接着剤は、典型的なdegronを持たないヒストンアセチル化酵素KAT2AをCRBNへ動員しました。クライオEM構造から、KAT2A表面のチロシンを起点として、新しいCRBN–KAT2A相互作用面が形成されることが分かりました。

KAT2A分解によりH3K9アセチル化が低下し、急性骨髄性白血病モデルで抗腫瘍効果が見られました。分子接着剤既存の分解目印を探すだけでなく、新しいタンパク質間界面を作ることで、分解可能な標的を広げられるようです。

6品目:RNAの形を設計してADARを治療へ利用する

ADARは、二本鎖RNA中のアデノシンをイノシンへ変換する内在性RNA編集酵素です。LEAPER 3.0では、標的RNAと結合するarRNAの二次構造を最適化し、高効率かつ高精度なRNA編集を実現しました。

編集部位周辺のinternal bulgeはバイスタンダー編集を抑え、外側のexternal bulgeは編集困難な配列での活性を高めます。RNA配列だけでなく、RNA二本鎖の形そのものがADAR活性を制御する設計要素となります。

関連研究では、環状arRNAを利用してDuchenne型筋ジストロフィーのエクソンスキッピングを誘導しました。非ヒト霊長類では、単回投与後も長期間にわたりジストロフィン発現と筋機能改善が維持され、初回ヒト投与でも用量依存的なエクソンスキッピングが確認されました。

DNAを恒久的に変更せず、内在性酵素とRNA構造を利用する治療戦略です。

7品目:植物の光合成装置を哺乳類の眼へ移植する

植物のチラコイド膜には、光エネルギーを利用してNADPHとATPを作る光合成反応装置があります。

今回、葉緑体から光依存反応に必要なチラコイドグラナを取り出し、LEAFと呼ばれるナノサイズの超複合体として哺乳類の角膜細胞へ導入しました。LEAFは光照射によってNADPHとATPを産生し、細胞内外の酸化ストレスと炎症を抑制しました。

LEAFは糖を作る完全な光合成系ではありませんが、動物細胞内で一時的な「ネオオルガネラ」として働きます。光が常に届く角膜という環境を利用し、植物由来のエネルギー変換装置を治療へ応用する発想です。

8品目:抗体と補体がシナプスを選んで除去する

C1q and immunoglobulins mediate activity-dependent synapse loss in the adult brain(Science)

補体C1qは、発生期や神経疾患でシナプス除去に関わることが知られています。しかし、どのシナプスへC1qが集まるのかは十分に分かっていませんでした。

今回、成体マウスの神経活動を高めると、活動領域でC1q沈着が増加し、特定のシナプス終末が減少しました。さらに、髄膜近傍へ集積した抗体産生細胞から分泌されるIgMがシナプスへ結合し、C1q依存的なシナプス除去に関わることが示されました。

アルツハイマー病モデルでは、神経過活動を抑えることでC1q沈着が減少し、シナプス密度が部分的に回復しました。自然免疫と獲得免疫が協力し、神経活動に応じて成体脳の回路を再編している可能性があります。

今週のまとめ

今週の8品では、科学研究を支援するAIから、分子集合体、RNA編集、光合成装置、神経免疫まで、生命科学の新しい制御概念を眺めました。

AIは仮説を作り、Wntは受容体を集合させ、KRASは凝縮体を形成します。ユビキチンはタンパク質だけでなくグリコーゲンや代謝物へ結合し、分子接着剤は新しい分解界面を作ります。

RNAの形はADARの編集精度を制御し、植物のチラコイドは哺乳類細胞内で光エネルギーを利用します。脳では、神経活動に応じて抗体と補体がシナプスを標識します。

生命は、分子を作るだけでなく、集め、包み、修飾し、編集し、必要に応じて分解します。そして現在では、研究者自身もAIと協力しながら、その仕組みを読み解こうとしています。

今週も、構造生物学、生化学、RNA科学、がん、神経科学、AIまで、生命科学の広がりを楽しむ時間となりました。

 
 
 

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Tokyo University of Science

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