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金曜CNSカフェ:AIでタンパク質を伸び縮みさせる―哺乳類が作る『単体硫黄』まで

9月25日
読了時間: 9分

今週はCell誌がお休みのため、Nature誌とScience誌から注目した9報を、8つのテーマに分けて紹介します。

今週の論文を眺めていると、生命科学でこれまで「決まったもの」と思っていたものが、実はかなり柔軟に変化し得ることを感じます。AIを使えば、タンパク質のamino acid sequenceだけでなく、長さそのものを設計変数にできる。約4,000残基もある巨大なvirus polymeraseも、構造を解けばRNA合成に合わせて形を変える精巧な分子機械として見えてきます。

一方、構造生物学では、精製したタンパク質を取り出して見るのではなく、植物の光化学系をnative membraneの中にある状態のまま観察する研究も登場しました。

後半では、ミトコンドリアがヘム不足を感知する仕組み、哺乳類が細胞内で作っていた単体硫黄S₈、4,000万年以上たっても「跳び続けている」遺伝子、高脂肪食と大腸がん転移をつなぐceramide、そして腸管で炎症を抑えるfibroblastまで取り上げます。

それでは、今週のおすすめ8品です。

1品目:AIでタンパク質を「伸び縮み」させる

Miniaturizing and modifying natural proteins with Raygun

DOI: 10.1038/s41586-026-10842-8

ここ数週間、AIを使って自然界のタンパク質を出発点に再設計する研究が続いています。

今回開発されたRaygunは、さらに一歩進んでいます。

通常のprotein language modelでは、タンパク質の各amino acid residueに対応したembeddingを扱うため、配列の長さが変わればデータの大きさも変わります。

Raygunでは、タンパク質全体を固定次元の確率分布として表現することで、異なる長さのタンパク質を同じ空間で扱えるようにしました。

これによって、amino acid substitutionだけではなく、大規模なinsertionやdeletionを導入しながら、

「このタンパク質を20%短くする」

といった操作まで可能になります。

実際にeGFPやmCherryを小型化すると、作製した8種類のうち6種類が蛍光を維持していました。近接標識酵素TurboIDでも小型化したvariantに活性が残っています。

さらに面白いのは、短くするだけではないことです。

EGFでは逆にタンパク質を大型化し、天然型より高いEGFR binding affinityを持つvariantも得られました。

タンパク質の機能は、現在の配列や長さに必ずしも固定されているわけではない。

AI上では、タンパク質そのものを「伸び縮みできる設計物」として扱えるようになってきました。

2品目:約4,000残基の巨大virus polymeraseを解く

Structures and inhibition of the Crimean–Congo haemorrhagic fever virus polymerase

DOI: 10.1038/s41586-026-10701-6

RNA synthesis and substrate analogue inhibition in the CCHFV polymerase

DOI: 10.1038/s41586-026-10913-w

クリミア・コンゴ出血熱ウイルス(CCHFV)は、RNA genomeを複製するためにL proteinと呼ばれる巨大なpolymeraseを使います。

その大きさは約4,000 amino acids、約450 kDa。

一般的なbunyavirus polymeraseのおよそ2倍という巨大な分子です。

今週のNature誌では、このCCHFV polymeraseを2つの研究グループがそれぞれ解析しました。

一見複雑ですが、構造を見ると中心部には他のRNA virusにも共通するRNA-dependent RNA polymerase(RdRP)があり、その周囲にNairovirus特有の巨大なdomainが付け加わっています。

つまり、

「4,000残基すべてが特殊なのではなく、中央にあるRNA synthesis engineの周囲を巨大な付加構造が取り囲んでいる」

と考えると分かりやすくなります。

さらにRNA synthesisが進むにつれて、周辺domainが動き、長くなっていくRNAを保持するconfigurationへ変化します。

そして両論文では、構造解析から阻害剤の作用機構も見えてきました。

一方ではendonucleaseを止めるWXSH0208と、RNAへ取り込まれた後に伸長を止める2′-deoxy-2′-fluorocytidine(2FC)。もう一方では、C型肝炎治療薬sofosbuvirと同様の2′ modificationを持つnucleotide analogueが、取り込まれた直後にRNA synthesisを停止させました。

巨大な分子機械の構造を解くことで、RNA synthesisの異なる段階をどこで止められるのかまで見えてきた。

構造生物学と創薬が非常に直接的につながった2報です。

3品目:光化学系を「取り出さず」に見る

In situ structures of plant photosystem supercomplexes

DOI: 10.1038/s41586-026-10847-3

タンパク質の構造を詳しく調べるとき、通常は目的のタンパク質を細胞や膜から取り出し、精製して構造解析します。

しかし、そこには問題があります。

精製することで、本来弱く結合していた分子や相互作用を失っている可能性があります。

今回研究チームはin situ cryo-EMを用いて、イネのchloroplastにあるphotosystemを、天然のthylakoid membraneに入った状態のまま解析しました。

すると、精製標品では失われていたLHCII antennaを含む、C₂S₂M₂L₄型PSII–LHCII supercomplexが観察されました。

つまり、これまで精製して見ていたphotosystemは、天然状態より少し「小さくなった姿」だった可能性があります。

さらにPSIIは単独で存在するのではなく、横方向、そして向かい合うthylakoid membraneの間でも相互作用し、より大きなassemblyを形成していました。

著者らは、このnetworkがgranaの積層構造を支える**「skeleton」**として働く可能性を提案しています。

photosystemは光を集める装置であるだけでなく、thylakoid membraneそのものを組み立てる構造骨格でもある。

構造生物学が、精製した分子を見る段階から、細胞内の本来の環境で分子を見る方向へ進んでいることを感じさせる研究です。

4品目:ヘム不足を最初に感知するのはミトコンドリアだった

An ancient mitochondrial program tunes translation to haem availability

DOI: 10.1038/s41586-026-10885-x

ヘムはhemoglobinをはじめ、さまざまなタンパク質に必要な重要な分子です。

一方で、過剰なヘムは細胞にとって有害なので、その量は厳密に調節する必要があります。

これまでヘム不足は、細胞質にあるeIF2α kinase HRIが直接感知すると考えられてきました。

今回の研究では、その前にもう一段階あることが分かりました。

ヘムが不足すると、まずmitochondriaのOMA1–DELE1 systemが反応します。

OMA1によってDELE1が切断され、mitochondriaから細胞質へ放出されます。そしてDELE1がHRIに作用すると、HRIに結合して活性を抑えていたヘムが外れます。

その結果、

mitochondrial haem deficiency → OMA1 → DELE1 → HRI activation → eIF2α phosphorylation

という経路でprotein translationが調節されます。

つまり、

ヘムを作るmitochondria自身がヘム不足を感知し、その情報を細胞質のtranslation machineryへ伝えている。

さらにこのsystemは、血液を持たない無脊椎動物にも保存されていました。

hemoglobinによる酸素運搬よりも古い時代から存在する、原始的なヘム監視systemだったようです。

5品目:哺乳類は「単体硫黄」を作っていた

Mammals produce cyclo-octasulfur to suppress lipid peroxidation and ferroptosis

Science Full Text

DOI: 10.1126/science.aec5473

硫黄というと、温泉や火山で見かける黄色い物質を思い浮かべるかもしれません。

代表的なのが、8個の硫黄原子が環状につながったcyclo-octasulfur(S₈)です。

S₈は細菌などのsulfur metabolismでは知られていましたが、今回研究チームは、驚くことにマウスやヒトの細胞もS₈を作っていることを示しました。

S₈はmitochondriaにも存在しますが、特にlipid dropletに蓄積しています。

さらに、その産生にはNO synthaseとして知られるeNOSが関与していました。

では、細胞はなぜS₈を作るのでしょうか。

S₈を減らすとlipid peroxidationが増加し、細胞はferroptosisを起こしやすくなりました。逆にS₈を供給すると細胞は保護されます。

その仕組みとして、S₈はglutathione(GSH)などと反応してhydropersulfideやpolysulfideを供給し、radicalを除去するantioxidant systemとして働くと考えられています。

つまりS₈自身が単純なantioxidantとして働くのではなく、

脂肪滴に蓄えた「硫黄reservoir」から、必要に応じてredox-active polysulfideを供給する。

哺乳類の細胞に、こんな硫黄の備蓄systemが存在していたというのは驚きです。

6品目:「遺伝子」になっても4,000万年以上跳び続ける

Escape of the BC200 gene to a human poxvirus reveals its persistent transposition in primates

Science Full Text

DOI: 10.1126/science.aeh3441

私たちのgenomeには、かつて移動する遺伝因子だったtransposable element由来の配列が数多く存在します。

その一部は進化の過程で新しい機能を獲得し、普通のgeneとして利用されるようになります。

BC200もその一例です。

BC200はAlu由来のnon-coding RNAで、約3,500~5,500万年前に機能的なgeneとして取り込まれ、神経細胞などでtranslation regulationに関わるようになったと考えられています。

普通なら、ここで話は終わりそうです。

ところが今回、human poxvirusであるmolluscum contagiosum virus(MCV)のgenome中に、BC200の挿入配列が見つかりました。

挿入部位にはtarget-site duplicationなど、L1によるretrotranspositionの特徴が残っています。

さらに908人のhuman genomeのlong-read dataを調べると、reference genomeにはないBC200 insertionが8種類見つかりました。一部は単一の個人にしか存在しない、非常に新しい挿入です。

霊長類全体を調べても、さまざまな系統でBC200が独立に増えていました。

つまりBC200は、

transposon由来の配列 → 機能的ncRNA gene → それでもなお動き続けるretrotransposon

という非常に特殊な存在です。

「jumping geneが普通のgeneになった」のではなく、geneになって4,000万年以上たってもjumpingをやめなかったようです。

7品目:脂質ががん細胞の「再生プログラム」を起動する

Ceramide synthesis mediates colorectal cancer metastasis through a YAP-driven regenerative program

Science Full Text

DOI: 10.1126/science.adw8520

高脂肪食と大腸がんの関係は以前から研究されています。

しかし今回の研究は、単純に「脂肪が多いとtumorが成長する」という話ではありません。

高脂肪食によってtumor内のceramide synthesisが増加すると、PP2Aを介して転写制御因子YAPが活性化されました。

その結果、Basp1を発現するYAP-driven regenerative cell stateが増加します。

これは通常のintestinal stem cellとは少し異なり、組織が損傷したときに働くregenerationやfetal-like programに近い状態です。

重要なのは、この状態がprimary tumorを単に大きくするためではなく、新しい場所へ転移したがん細胞が定着するmetastatic seedingに強く関係していたことです。

実際にceramide synthesisに関わるDegs1を欠損させると、YAP programとliver metastasisが低下し、高脂肪食による転移増加も抑えられました。

つまり、

dietary fat → ceramide → PP2A → YAP → regenerative state → metastasis

という経路が見えてきました。

脂質は単なるtumorの燃料ではなく、細胞の状態を書き換えるsignalにもなる。

食事、代謝、細胞状態、そしてがん転移が一つの分子経路でつながった興味深い研究です。

8品目:線維芽細胞は免疫細胞に「炎症細胞を呼ぶな」と伝える

Fibroblasts restrain gut inflammation by IGF1-dependent regulation of innate lymphocytes

Science Full Text

DOI: 10.1126/science.aei0062

fibroblastというと、組織を支えるcollagenなどを作る「足場の細胞」という印象があります。

しかし近年、fibroblastが免疫反応を積極的に調節していることが分かってきました。

今回の研究では、健康な腸管に存在するC3⁺/IGF1⁺ fibroblastが、ulcerative colitisやCrohn's diseaseなどのinflammatory bowel disease(IBD)で減少していることが示されました。

では、このfibroblastは何をしているのでしょうか。

fibroblastから分泌されたIGF1は、innate lymphoid cell 3(ILC3)のIGF1 receptorに作用します。

するとILC3によるCXCL10産生が抑えられます。

CXCL10はCXCR3を持つplasmacytoid dendritic cell(pDC)を呼び寄せるchemokineなので、結果としてpDCの過剰な集積と腸管炎症が抑えられます。

つまり、

IGF1⁺ fibroblast → ILC3 ┤ CXCL10 → pDC recruitment → inflammation

というnetworkです。

IBDでは炎症を起こす「悪い細胞が増える」ことに注目しがちですが、この研究からは別の側面が見えてきます。

「炎症を抑えていた良いfibroblastが失われる」ことも、炎症を引き起こす原因になり得る。

fibroblastは単なる組織の足場ではなく、周囲の免疫細胞へ常に「炎症細胞を呼びすぎるな」というsignalを送っているようです。

今週のまとめ

今週のNature誌とScience誌では、AI protein design、構造生物学、metabolism、evolution、cancer、immunologyと、一見するとかなり離れた分野の研究が並んでいます。

しかし8つの話題を通して見ると、共通するものも見えてきます。

Raygunでは、タンパク質のamino acid sequenceだけでなく、長さそのものが設計対象になりました。

CCHFV polymeraseでは、約4,000残基という巨大なタンパク質が、RNA synthesisに合わせてdomainを動かす分子機械であることが分かりました。

植物のphotosystemでは、精製した分子では失われていた相互作用をnative membraneの中で捉えることで、分子構造からorganelle architectureまでつながりました。

一方、ヘム不足はmitochondriaからtranslation machineryへ伝えられ、S₈はlipid dropletに蓄えられたantioxidant reservoirとして働いていました。

BC200は4,000万年以上にわたりgeneでありながらtransposonでもあり続け、ceramideはmetabolismをYAP-dependentなcell stateへ変換していました。

そして最後のfibroblastの研究では、組織を構成する細胞同士のcommunicationが炎症の有無を左右していました。

タンパク質の長さ、巨大分子の動き、膜の中での配置、代謝物の量、遺伝子の移動、細胞の状態、そして細胞同士の会話。

今週の論文は、生命現象を理解するためには、分子を単独で見るだけではなく、その分子がどのような環境に置かれ、どのように動き、周囲とどのようにつながっているのかを見ることが重要であることを改めて感じさせてくれました。

 
 
 

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Tokyo University of Science

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