2025年度生化学川柳第二週目優秀川柳賞/2025Biochemistry Haiku prize week2
- nishinotatsuya
- 5月1日
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先週の講義では「水」について学びました。
ただの水ではありません。生命にとって不可欠で、他のどんな溶媒とも異なる、非常に特異な性質をもった物質としての水です。
水分子は1つの酸素原子と2つの水素原子からなる極性分子で、酸素の高い電気陰性度と分子構造のために、水素結合という特殊な相互作用を形成します。この水素結合が、水の高い融点(0℃)や沸点(100℃)、比熱や気化熱の高さ、さらには氷が水に浮くといった性質の背景にある力です。こうした性質が、生命を安定的に維持する環境を支えているのです。
生体内では、すべての化学反応が水を媒介として行われています。水は単なる溶媒ではなく、タンパク質の立体構造形成、DNAの塩基対の安定化、酵素と基質の認識、脂質膜の自己集合といった、あらゆる生命現象の物理的基盤を担っています。水分子は自身がプロトン(H⁺)の供与体にも受容体にもなれるため、いわゆる「プロトンホッピング」によってH⁺の移動が非常に迅速に進むことも特徴です。
また、水の中では酸や塩基が部分的に電離することでpHが決まり、生体内ではこのpHがきわめて精密に制御されています。弱酸とその共役塩基からなる緩衝液は、pHの急激な変化を防ぐ働きをし、細胞の中や血液中で安定した生理的環境を保つ重要な役割を果たします。たとえばリン酸緩衝系や炭酸水素緩衝系はその代表例であり、講義ではヘンダーソン=ハッセルバルヒの式を用いて実際のpHの計算も行いました。
さて、先週の優秀川柳は以下の5句です。
–ベンゼン環 水に囲まれ 四面楚歌
–水の個性 水素結合 鍵握る
–水分子 プロトンホップで バトンリレー
–生き物の 平和はバッファ 働いて
-氷のね 六方晶が 浮く秘訣
下の写真は、温度の違いによる氷の結晶の違いと、様々な雪の結晶の顕微鏡写真です。雪の結晶は、水が凍る際の温度や湿度の条件によって実に多彩な形を見せてくれますが、そのすべての基本構造は六方晶系に基づいています。こうした雪の結晶の研究で知られるのが、北海道大学の中谷宇吉郎博士です。彼は世界で初めて人工の雪の結晶を生成し、「雪は天からの手紙」という名言を残しました。氷が水に浮くという現象も、実はこの六方晶系構造によって密度が低くなるからこそ起こる自然の巧みな仕組みなのです。

来週からはいよいよ「アミノ酸、ペプチド、タンパク質」の章に入ります。生命の構造と機能の本体とも言えるこれらの分子がどのように組み立てられ、どのように働いているのか。引き続き、しっかりと予習と課題に取り組んでいきましょう。
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