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2025年度バイオインフォマティクス川柳・第七週目優秀作品

  • 執筆者の写真: nishinotatsuya
    nishinotatsuya
  • 11月12日
  • 読了時間: 4分

更新日:3 日前

先週は今クオーター最後の講義を行いました。

これまでの6週間で、配列解析、構造比較、ゲノムやトランスクリプトーム、さらにはプロテオームについて学んできました。7回目となる最終回では、生命システムが正しく働くための鍵となるエピゲノム、分子どうしのつながりを理解するためのパスウェイ解析、そして環境中の生物多様性を明らかにするメタゲノム解析について扱いました。


私たちの体は、たった一つの受精卵からスタートしますが、その後の分化により多様な細胞へと変化します。また、父親・母親それぞれの遺伝子を1セットずつ受け継いでいるにもかかわらず、どちらかの形質が強く現れることもあります。元の遺伝情報は同じなのに、なぜこのような違いが生まれるのでしょうか。

この説明に役立つのがエピゲノムです。エピゲノムにはDNAのメチル化や、染色体構造を担うヒストンタンパク質の翻訳後修飾などが含まれます。これらの化学的な「書き込み」により、遺伝情報は同じでも、双子の間でさえ異なる性質が生まれることがあります。

これを解析する手法として、メチル化シトシンの状態を明らかにする亜硫酸処理(bisulfite)と、ヒストンの修飾状態を調べるChIP解析が重要になります。これらの手法により、ゲノムのどの領域がどのように修飾されているかを知ることができます。


遺伝子が正しく機能するためには、単独で働くのではなく、複数の因子が連携してネットワークを形成している点も重要です。これはタンパク質同士の相互作用だけではなく、転写・翻訳による調節、代謝過程での酵素反応のつながりなど、多層的な関係性で構成されています。ネットワークでは各要素が「ノード」、それらをつなぐ関係が「エッジ」と呼ばれ、一見複雑な構造に見えますが、生命システムの巧妙さを理解するうえで欠かせない視点です。


一方、私たちの身の回りには、目には見えないものの膨大な種類の微生物が存在します。パン、ビール、ヨーグルト、酒、味噌、納豆といった発酵食品は、酵母、麹菌、枯草菌などの微生物による働きが不可欠です。

しかし、微生物の中には培養可能なものもあればそうでないものもあり、ウイルスのように宿主がいなければ増殖しないものもあります。水・土・氷など、自然環境にはまだ未知の生物やウイルスが数多く潜んでいると考えられています。

このような多様な生物・無生物が持つ遺伝子の集合を解析するのがメタゲノムです。そこには、特定領域を解析するアンプリコン解析と、環境中の遺伝子を丸ごと解析するショットガン解析があります。次世代シーケンサーを用いることで、これらを大規模・網羅的に解析することが可能になりました。

さて、先週の優秀川柳は以下の5句です。


-解析の おともにどうぞ ChIPスター

-メチル化で Uに変わるの 防ぎます

-ショットガン 撃てば出てくる 微生物

-そのマップ 難し過ぎて パスアウェイ

-繋がった ノードの先に 新発見


以下の画像は、KEGGパスウェイにおけるバリン、ロイシン、イソロイシンの生合成経路です。

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ヒトは体内でいくつかのアミノ酸を合成できず、食品から摂取する必要があります。これらは「必須アミノ酸」と呼ばれます。何が必須アミノ酸になるかは生物種によって異なり、その違いは該当するアミノ酸合成酵素を持つかどうかによって決まります。

微生物のようにすべての酵素が揃っている場合は必須アミノ酸が存在しませんが、特定の酵素が欠けている生物では、その経路が必須アミノ酸になります。

パスウェイを見ると、右側のピルビン酸を起点として、バリン・イソロイシンではそれぞれ5つ、ロイシンでは9つの酵素反応を経て合成されています。これらのアミノ酸はBCAAと呼ばれ、筋肉タンパク質であるアクチンやミオシンの合成に重要であることから、ボディビルダーに人気があります。

もちろん、一般の人にとってもタンパク質は重要であり、必須アミノ酸は日々の食事から積極的に摂取する必要があります。

興味がある方は以下のページをご覧ください。 https://www.kegg.jp/kegg-bin/show_pathway?map00290


これで今季のバイオインフォマティクス講義は終了です。

次回は年明けの到達度評価になりますので、しっかり復習して臨んでください。


 
 
 

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